SETOUCHI MINKA

「いとをかし」 畳の世界 ③現代の畳づくりを見学。

「毎日の暮らしを快適で豊かにする畳をつくる」そんな思いを胸に、畳づくりと日々向き合い続ける香川県高松市の「山下畳商店」を訪問し、
現代の畳づくりを拝見した。

<取材・写真・文/鎌田 剛史>

畳文化の再興と永続を目指す畳店。

香川県高松市国分寺町に店を構える「山下畳商店」は、1953年に創業。現在は3代目店主の山下明宏さんが親方としてらつ腕を振るう。山下さんは全国から畳の一級技能士が集まり技術を競う「技能グランプリ」で入賞経験を持つほどの腕前で、同社に在籍する4人の畳工も全員が一級技能士の資格を持つ少数精鋭の技巧派集団だ。

国内の畳市場は減少の一途をたどり、畳表の大半を中国産が占めている現状だが、同社では国産の畳表を積極的に使っている。「うちが作る畳の約8割は主に熊本や佐賀、高知の畳表です。今、栽培量や作付面積が減っているイグサ農家のためにも、私たち畳店は国産をどんどん使わないと。畳業界の斜陽化を食い止めるためには、畳店の意識改革も必要。何より、畳業界全体を夢のある商売にしていかないといけませんね」と山下さんは警鐘を鳴らす。イグサ産地へ何度も足を運び、信頼できると確信した生産者とのみ取引をしているそうだ。「中国産のイグサは価格は安いですが、現地でカラカラに乾燥させてから日本へ運ぶので、畳表にしても香りが全然違うしすぐボロボロになるんです。国産の畳表は最適な含水率を保ったイグサで織るので、なめらかで香りも豊か。何より安全・安心です。畳をお求めの方にはこの違いをしっかりと説明した上で、畳表を選んでいただくようにしています」。

国内での畳需要の大幅な上昇が見込めない中、山下さんは今、海外に向けて畳を販売できないか模索中だ。「畳のある和室が好きという外国人も多く、少なからずニーズはあるはず。農産物の輸出にかけられるさまざまな制限や、輸送コスト、現地での補修・管理など課題は山積みですが、実現に向けて各方面に働きかけていこうと考えています」。

畳工としての仕事にかける思いや、畳業界の今後の展望などについて熱く語ってくれた山下明宏さん。畳のプロとして自身の技術と知識のさらなる向上に励むとともに、海外販売など新たな事業にも果敢に挑戦してきたいと意気込む。
事務所の奥にある作業場は、機械や床など隅々まで掃除が行き届き清潔に保たれている。同社には現在畳工が4人、ふすま職人1人の計5人が在籍している。
現代の畳づくりは大半を機械で行っており、あらかじめ入力したデータ通りに加工されていく。

現代の畳の製造工程

部屋の寸法を正確に計り、それに合わせて裁断した畳床に畳表と畳縁を縫い付け、加工するのが畳工の仕事。工程の大半は機械で行い、高い品質と精度を誇る畳をスピーディーに仕上げる。畳表や畳縁を縫い付ける工程は専用の機械によって自動化されているが、畳表の仕上げや畳縁の四隅を縫う作業などは手で行っている。

① 畳表の裁断

採寸したサイズに合わせて畳床を加工・製作。その寸法に合わせて畳表を裁断する。

② 畳表の縫い付け

畳表の張り具合を調整し、畳床に仮止めした後しっかり縫い付ける。「框(かまち)縫い」という。

③ 畳表の仕上げ

畳表の泥を取り除き、艶を出すための「洗い」。関西ではこの作業を省く畳店も多いとか。

④ 畳縁の縫い付け

専用の機械で幅方向に切断しながら、畳縁を両側同時に縫い付ける。「平刺し縫い」という。

⑤ 畳縁の隅留め

縫い付けられた畳縁を返し、四隅をしっかりと手作業で留めていく。

⑥ 畳縁の側面縫い

畳縁の側面を専用の機械で両面同時に縫い付ける。この作業を「返し縫い」という。

⑦ 完成

全ての切断と縫い付け作業が完了。機械では1枚約15分、手縫いでは1枚約30分で完成する。

畳床と畳表には相性もある

稲わらや化学製品など畳床の素材によって相性の良い畳表も異なる。畳の製作も稲わらの畳床なら手縫い、化学製品を用いた畳床なら機械縫いといったように、それぞれ適した方法を選択する。

オーダーメイドの畳を寸分違わず敷き詰められてこそ一流。

包丁と呼ばれる道具を使い、畳表に折り目を付ける技を見せてくれた山下さん。近年はこうした畳工の道具を作る職人も高齢化で減っており、新しいものが手に入りにくくなっているという。

機械化によって品質の良い畳をコンスタントに仕上げられるようになった現代において、畳工の一番の腕の見せ所は採寸であると山下さんは強調する。「畳を敷く部屋の寸法をどれだけ正確に測れるかが重要。畳には京間や江戸間など多彩な種類がありますが、今ではどの規格にも当てはまらないサイズの畳を作るのが普通。現代の畳は完全なオーダーメイド品なんです。建物の構造や意匠、デザインなどバリエーションが実にさまざまですから、常に綿密な計測が必要とされます」。山下さんいわく、新築をはじめ、どんな建物にも縦横斜めに寸法の誤差が必ず発生するといい、そのわずかなずれに合わせて1枚1枚の畳のサイズを調整。敷き詰めた際、いかに隙間なくぴったり収めることができるかに畳工の技量がかかってくるそうだ。今はレーザーを飛ばして寸法を測る計測器を使うのが普通だが、山下さんは糸を使って垂直具合や対角比などを割り出す伝統の採寸法も習得。レーザーが届かない大空間や特殊な形状をした部屋などでは、今でも昔ながらの方法を用いるという。

利益や効率よりも、すべての人に高品質な畳を提供し、喜んでもらうことが山下さんの信条。今では敬遠されがちな手間や時間を掛けることも決していとわない。「今は必要ないとされる昔の技術も身に付けておきたいし、大切にしたい。いつそれが必要とされる時が来るか分かりませんし、いつでもどこでも対応できるように備え、二手三手と駆使できる技の引き出しを増やしておくのがプロの務めだと思うんです。とにかく畳のことなら何でも気になるし、知りたいし、自分もできるようになりたいんですよ。やっぱり根っからの畳好きなんでしょうね」。

畳縁の無い「琉球畳」専用の機械もある。畳の種類はもちろん、畳床・畳表・畳縁も好きなものを選択可能。その組み合わせによって仕上げ方も完全手縫い、7割手縫い、機械縫いといったように変わる。
最近は多彩なカラーの畳表も豊富にラインアップされている。素材は天然樹脂などの化学製品で、オシャレで変色しにくく、防ダニ・防カビ性に優れるなどのメリットもある。
ペット用の畳表も。傷が付きにくく、掃除もしやすい。
熊本産の天然イグサを使用した「ウォーター・ジュエリー畳表」は、水をはじき汚れにくい性質を持つ次世代の畳表。

山下 明宏

2011年3代目社長に就任。2018年の「技能グランプリ」の畳製作部門で、四国では初の入賞に輝く。職人技能向上に力を注ぎ、全従業員が畳製作一級技能士の資格を持つ全国屈指の高い技術力を誇る畳店へと成長。人の生活を豊かにすることを常に考えながら畳製作にまい進している。

有限会社 山下畳商店

【高松本店】
香川県高松市国分寺町新居1649-5 8:00~17:00
夏季・冬季休業、不定期での研修休業(年2回程度) ☎087-874-0102
【三豊観音寺店】
香川県三豊市豊中町笠田笠岡南2130-1 8:00~17:00
夏季・冬季休業、不定期での研修休業(年2回程度) ☎0875-23-7201 https://tataminotakumi.com 

この記事を書いたのは…
瀬戸内民家シリーズの雑誌表紙

瀬戸内海沿岸の岡山・広島・山口・香川・愛媛・兵庫各県で家づくりを手掛ける腕利き工務店の情報に加え、瀬戸内の自然や気候風土、歴史、文化といった、瀬戸内で暮らす魅力を発信しています。さらに詳しく>

畳の歴史やその魅力をはじめ、瀬戸内で畳文化を守ろうと情熱を注ぐ人たちを徹底取材した記事は、ぜひ本誌でチェック!!

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