瀬戸内が舞台の小説の中には映画化されたものが多数あり、瀬戸内各県で撮影ロケを行った作品も多い。スクリーンの中に登場する瀬戸内ならではの美しいスポットへ実際に足を運び、作品の世界観に浸ってみよう。香川県内で撮影された小説映画のロケ地を紹介。
<取材・写真・文/鎌田 剛史>
目次
『機関車先生』のロケ地 ~香川県三豊市 志々島・粟島~
ゆっくりと時が流れる小島で、古き良き時代にタイムスリップ。
1960年代の瀬戸内海の島を舞台にした伊集院静さんの小説『機関車先生』は2004年に映画化、香川県の塩飽諸島を中心にロケが行われた。三豊市の沖合に浮かぶ「志々島」「粟島」には印象的なシーンの舞台となったスポットが多く存在。この作品の象徴ともいえる「志々島の大楠」をはじめ、伝統的な日本家屋が建ち並ぶ集落や静かな波止場、大正ロマンの趣あふれるレトロな建造物など、物語の世界観をじっくりと味わえる。三豊市詫間町の須田・宮の下の両港から出ている定期船を利用。事前に時刻表を確認してから予定を立てよう。
志々島の小さな集落には、子どもたちが縁側で駄菓子やジュースを飲食していた「いせや商店」が今も残る。
ラストシーンをはじめ、物語の重要なシーンに登場するのが「志々島の大楠」。
坂口憲二さん演じる誠吾の教え子の少年と、漁船の父が会話するシーンが撮られた志々島の「本村漁港」。
島を後にする誠吾を見送るために子どもたちが駆け抜けた路地。
誠吾と教え子たちがとうろう流しをした船着き場。
絵画コンクールの会場となったのは「粟島海洋記念館」。
「粟島海洋記念館」は、明治時代に日本最初の海員養成学校として開校した旧粟島海員学校跡で、粟島のシンボル的存在。
誠吾と子どもたちが通う小学校のロケ地は丸亀市本島の「水見色小学校」だが、同校の剣道道場のシーンは、海洋記念館の裏にある武道場で撮影された。
映画『機関車先生』
監督:廣木 隆一/公開:2004年/日本ヘラルド映画/123分
原作『機関車先生』
瀬戸内にある小島「葉名島」の全校生徒7人の小学校にやってきた臨時の先生。体が大きく、優しいまなざしの先生は、幼少期の病気が原因で口がきけなかった。子どもたちは、実直な先生との心の触れ合いを通し、生涯忘れられない絆を深めていく。柴田錬三郎賞を受賞した涙と感動の名作。
伊集院 静 著 講談社文庫/講談社
ロケ地となった志々島や粟島をはじめ、三豊市の観光情報は「三豊市観光交流局ホームページ」でチェック!
『八日目の蝉』のロケ地 ~香川県土庄町・小豆島町~
哀しい運命を背負う母と娘が見つめた島の風景をたどる。
女性の生きる哀しみと強さを描いた角田光代さんの小説『八日目の蝉』。2011年公開の映画版は、日本アカデミー賞で作品賞など10冠を獲得するなど話題になった。永作博美さん演じる希和子が、薫と名付けた不倫相手の子と逃亡の日々を過ごす舞台となったのが小豆島。「二十四の瞳映画村」「寒霞渓」「中山千枚田」など、島を代表する美しい風景がスクリーンを彩る。ロケ地巡りは香川県観光協会のサイト「うどん県旅ネット」などで紹介されているルートを参考にしながら、自家用車か現地のレンタカーで巡ろう。
多くの映画やドラマのロケ地に選ばれ、観光地としても人気の小豆島。高松港のほか新岡山、神戸、姫路の各港との間に定期便が運航されている。(写真/池田 知英)
小豆島西端にある小瀬石鎚神社のご神体「重ね岩」はエンドロールに映し出される。(写真/池田 知英)
地中海のようなムードとロケーションが広がる「小豆島オリーブ公園」も撮影地の一つ。(写真/池田 知英)
希和子と薫が「学校ごっこ」をして遊ぶシーンは、「二十四の瞳映画村」にあるレトロな木造校舎で撮影。(写真/池田 知英)
日本三大渓谷美の一つ「寒霞渓」。希和子と薫も見つめた雄大な景色を展望台から堪能。(写真/池田 知英)
希和子の勤務先だったのがそうめん工場。特産の小豆島そうめんはぜひ味わいたい。(写真/池田 知英)
島の伝統行事「虫送り」の幻想的なシーンの舞台が「中山千枚田」。(写真/池田 知英)
小豆島定番の観光スポット「エンジェルロード」は、1日2回干潮時に現れる砂の道。(写真/池田 知英)
映画『八日目の蝉』
監督:成島 出/公開:2011年/松竹/147分
原作『八日目の蝉』
「逃げて、逃げて、逃げのびたら、私はあなたの母になれるだろうか…」。誘拐犯と誘拐された子。東京から名古屋、そして、瀬戸内海の小豆島へ。偽りの母子の先が見えない逃亡生活。そこには理性を揺るがす愛があり、罪にもそそぐ光があった。心揺さぶるラストまで息も継がせぬ傑作長編。
角田 光代 著 中公文庫/中央公論新社
ロケ地情報などは「うどん県旅ネット」でチェック!
『世界の中心で、愛をさけぶ』のロケ地 ~香川県高松市庵治町~
淡く切ないラブストーリーが描かれた“純愛の聖地”を歩く。
白血病を患った女子高生アキと、恋人のサクとの切ない純愛の日々を描いた片山恭一さん原作『世界の中心で、愛をさけぶ』。2004年に公開された映画は大ヒットし、「セカチュー」が流行語になるなどの社会現象を巻き起こした。ロケ地の高松市庵治町は「純愛の聖地」として脚光を浴び、ふたりで夕陽を見つめた防波堤や、ブランコのある「皇子神社」など、劇中に登場する場所に全国から大勢のカップルが訪れた。今は当時ほどのにぎわいはないものの、サクとアキが過ごした海沿いの田舎町の風景は変わらず残っている。
2人で夕焼けを眺めながら語り合った防波堤。サクが海に向かって叫ぶ印象的なシーンもここ。
長い石段を上った先にある「皇子神社」。
「皇子神社」の境内にはサクとアキが乗ったブランコがある。童心に戻ってブランコをこぎながら庵治漁港や瀬戸内海が見渡せる。
アキが花嫁衣装を着てサクと写真を撮影した雨平写真館の復元セットがある「純愛の聖地庵治・観光交流館」。
サクとアキがショーウィンドーに飾られたウォークマンを眺めた電気店。実際は衣料品店で現在も営業中。
サクとアキの通学路として登場する赤い欄干の橋がある交差点。
サクがアキをスクーターに乗せて駆け抜けるシーンが撮影された道。五剣山をバックにのどかな田園風景が広がる美しいロケーション。
大人になったサクがアキからのメッセージが入ったテープを聴いた防波堤。
映画『世界の中心で、愛をさけぶ』
監督:行定 勲/公開:2004年/東宝/138分
原作『世界の中心で、愛をさけぶ』
高校2年の「朔太郎」と恋人の「アキ」。物語はアキの死から始まる。生前の彼女との思い出を回想するようにストーリーは語られていく。ふたりの出会い、無人島への旅、アキの発病、入院、そして空港での彼女の死。最愛の人を失うとはどういうことなのか。日本中を涙と感動で包んだラブストーリー。
片山 恭一 著 小学館文庫/小学館
ロケ地情報などは「純愛の聖地庵治・観光交流館ホームページ」でチェック!
『青春デンデケデケデケ』のロケ地 ~香川県観音寺市~
“デンデケデケデケ”を聴きながら、“銭形の街”を散策する。
芦原すなおさんの直木賞受賞作『青春デンデケデケデケ』は、ロック音楽にのめり込み、恋愛や受験などの悩みを抱えながらも成長していく高校生たちの物語。1992年には映画化され、その撮影が観音寺市内の各所で行われた。「羅漢寺」「琴弾八幡宮」「銭形砂絵」をはじめ、スクリーンに映し出される田舎町の風景は公開から30年たった今もそのまま。誰にでもあるかけがえのない青春時代の淡く懐かしい思い出を呼び起こしてくれる。ベンチャーズの「パイプライン」をBGMに撮影スポットを巡るのも楽しみ方の一つだ。
ちっくんたちが通う高校としてロケが行われた「観音寺第一高校」。校門は当時のままで今も使われている。
ちっくんたち5人で組んだバンド「ロッキング・ホースメン」のベース担当・合田富士男は寺の息子。「羅漢寺」は富士男の家として登場。
映画公開から約30年の月日が経つが、のどかな田舎町の風情は今も変わっていない。
地元では有明富士とも呼ばれる「江甫草(つくも)山」の山頂へと続く登山道は通学シーンなどに使われた。
バンドが石段の踊り場で練習する場面は「琴弾八幡宮」の参道で撮影。
ちっくんたちの通学途中に現れる赤い欄干の橋は「琴弾公園」に架かる「タイコ橋」。
観音寺市のシンボルともいえる寛永通宝の「銭形砂絵」。展望台からの眺めがスクリーンに現れる。
観音寺市のシンボルともいえる寛永通宝の「銭形砂絵」。展望台からの眺めがスクリーンに現れる。
映画『青春デンデケデケデケ』
監督:大林 宣彦/公開:1992年/東映/135分
原作『青春デンデケデケデケ』
ラジオから流れてきたベンチャーズの「パイプライン」。エレキギターのトレモロ・グリッサンド奏法のフレーズで、高校進学を控えた15歳の「ちっくん」はロックに目覚める。「やっぱりロックでないといかん!」。四国の田舎町の高校生たちが繰り広げるロックと友情、淡い恋と笑いに満ちた永遠の青春音楽小説。
芦原 すなお 著 作品社
ロケ地となったスポットをはじめ、観音寺市の観光情報は「かんおんじ観光ガイド」でチェック!
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