瀬戸内が舞台の小説の中には映画化されたものが多数あり、瀬戸内各県で撮影ロケを行った作品も多い。スクリーンの中に登場する瀬戸内ならではの美しいスポットへ実際に足を運び、作品の世界観に浸ってみよう。岡山県内で撮影された小説映画のロケ地を紹介。
<取材・写真・文/鎌田 剛史 田中淳奈>
目次
『瀬戸内少年野球団』のロケ地 ~岡山県笠岡市 真鍋島~
ノスタルジックな漁村風景や木造校舎が心を和ませる。
1984年に公開された『瀬戸内少年野球団』は、作詞家・阿久悠さんの自伝小説を映画化したもの。終戦直後の混乱の中で、夏目雅子さんの演じる女性教師と子どもたちがひたむきに生きる姿が多くの人の心を打ち大ヒットを記録。本来の舞台は阿久さんの出身地である兵庫県の淡路島だが、ロケは昔日の風情が残る笠岡市真鍋島を中心に行われた。公開から40年近く経つ今も、昭和風情が薫るのどかな島の情景は当時のまま。スクリーンに登場する「真鍋小中学校」の木造校舎や「円福寺」など、島内をゆっくり歩いて巡ることができる。
ゆっくりとした島時間が流れる真鍋島。これまでにも数々の映画やドラマのロケ地に選ばれ、最近では2022年公開「劇場版ラジエーションハウス」の撮影も行われた。
小さな島なので各所を歩いて回れる。細い路地を散策するのも島を訪れる醍醐味。
国の登録有形文化財「真鍋家住宅」も見所スポット。
「真鍋家住宅」の敷地の一角には樹齢約250年のホルトノキが雄大な姿で佇んでいる。
石積みの防波堤や年季の入った家屋など、懐かしい漁村の佇まいが今も残る。
1949年築のノスタルジックな木造校舎も現存。「真鍋小中学校」の校内にあり、職員室に許可を得れば運動場から外観を見学できる。
木造校舎の内部は老朽化により現在見学は受け付けていないが、外から中の様子をうかがうことができる。校内に入れるのは授業がある平日のみなので注意。
映画『瀬戸内少年野球団』
監督:篠田 正浩/公開:1984年/日本ヘラルド映画/143分
原作『瀬戸内少年野球団』
敗戦直後の淡路島を舞台に、初めて手にした野球ボールに魅せられた子どもたちと女性教師とのふれあいを描いた阿久悠の代表作。歌を自由に歌える喜び、仲間への思いやりと友情、ほのかな初恋…。貧しくも活気に満ちていた昭和の時代を、少年少女の視点で描いた傑作青春小説。
阿久 悠 著 岩波現代文庫/岩波書店
ロケ地情報などは「またたび笠岡」でチェック!
『バッテリー』の映画ロケ地 ~岡山県高梁市~
純真無垢な野球少年たちが白球を追った、緑まぶしい山間の町へ。
岡山県出身の小説家・あさのあつこさんが、天才少年ピッチャーと彼を巡る人たちの姿をみずみずしく描いた『バッテリー』。同作品の舞台となった高梁市は、2006年公開の映画でもロケ地となった。冒頭のシーンで林遣都さん演じる主人公・巧の家族が全員で町並みを見つめた「ループ橋展望台」や、山田健太さん演じるキャッチャーの豪と再びバッテリーを組む場面が撮られた「なりわ公園」からの眺望など、高梁盆地を借景に広がる自然豊かな町の風景が、スクリーンの感動を誘う演出として一役買っている。
岡山県の山間の町へ越してきた主人公・巧の家族が町並みを一望するオープニングの場面は「ループ橋展望台」で撮影。
巧と豪が仲直りして絆を深め、ふたりきりでキャッチボールする印象的なシーンの舞台となった「なりわ公園」の展望台。現在は周囲に雑木が生い茂り、眺望が望めなくなっている。
寺の息子であるチームメートのサワの家として登場する「大福寺」。
サワが上って町を見つめていた大きなケヤキが目印。
踏切のある「高梁高校」の正門前は、巧たちが通う新田東中学校の通学シーンで登場。
巧の家族が越してきた家は、白壁で立派な門構えのある旧宅「柏木邸」が使われた。
白壁の長屋門や土壁が美しい「武家屋敷通り」は巧の家の近所の風景として映し出される。
巧と弟の青波が二人乗りの自転車で颯爽と駆け下りた「小高下谷川」沿いの坂道。
映画『バッテリー』
監督:滝田 洋二郎/公開:2006年/東宝/118分
原作『バッテリー』
中学入学を控えた春休みに、父の転勤で岡山県の山間部の町に引っ越してきた「巧」。ピッチャーとしての自分の才能を強く信じ、ストイックにトレーニングに励む巧の前に、同級生のキャッチャー「豪」が現れる。2人なら最高のバッテリーになれるという想いが、巧の胸を揺さぶるが…。
あさの あつこ 著 角川文庫/KADOKAWA
ロケ地情報などは「岡山観光WEB」でチェック!
『でーれーガールズ』のロケ地 ~岡山県岡山市~
青春のほろ苦さが蘇る、懐かしい日々をなぞる旅。
1980年と現代が交錯しながら、2人の女性の友情を描いた作品『でーれーガールズ』。原作者・原田マハさんが実際に青春時代を過ごした岡山市内を舞台に描かれていることから、2015年の映画化の際にはほぼ全編が岡山市内をロケ地として撮影された。原作内と劇中の風景がリンクするシーンも多く、鮎子と武美が過ごした場所を実際に訪れ、空気感に触れることができる。岡山市公式観光情報サイト「おかやま観光ネット」で紹介されているルートも参考にしながら、彼女たちの思い出の風景を巡ってみよう。
鮎子が「ジョージ」こと淳と出会った「岡山駅西口連絡通路」。
通学シーンのほとんどが撮影された「奉還町商店街」。鮎子と武美が寄り道していた駄菓子屋。
劇中で当時の岡山市長が店主役を務めた青果店。
商店街周辺は今も当時のレトロな雰囲気がそのまま残っている。
2人がレコードを探していた店は、映画のパンフレットなどを取り扱うコレクターズショップ「映画の冒険」。店内には主要キャスト4人の直筆サインが入ったポスターも飾られている。
岡山駅のシンボル「桃太郎像」。訪れたらぜひ記念撮影してみよう。
重要シーンやクライマックスシーンの多くが撮影された「鶴見橋」。
冒頭のインタビューシーンや同級生との食事シーンが撮影された「城下カフェ」。壁一面に本が並ぶ内装は壮観。
映画『でーれーガールズ』
監督:大九 明子/公開:2015年/名古屋テレビ放送/118分
原作『でーれーガールズ』
1980年の岡山。東京から引っ越してきた「鮎子」は、無理に岡山弁を連発して同級生の「武美」に馬鹿にされていた。しかし、鮎子が描いた恋愛漫画を武美が偶然読んだことから急速に仲良しに。漫画に夢中になる武美に、鮎子はどうしても言えないことがあって…。大切な友だちに会いたくなる感涙の青春小説。
原田 マハ 著 祥伝社文庫/祥伝社
ロケ地情報などは「おかやま観光ネット」でチェック!
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