SETOUCHI MINKA

瀬戸内近郊の「文学の街」へ出かけよう!~愛媛県松山市~

簡単には旅に出られない昨今。例えば、自分の住む地域が舞台となった文学作品を読みながら、その場所の情景や雰囲気についてイメージを膨らませるとともに、いつかそこへ足を運ぶための予定を今のうちに立ててみるのはいかがだろう。そんな「文学の旅」を楽しめる瀬戸内各県のおすすめスポットをご紹介。当誌の誌面を華やかに彩る「せとみんガールズ」のメンバーが、日本最古の温泉「道後温泉」と文学の街として全国に知られる愛媛県松山市へ1day tripを敢行。俳人・正岡子規を生み、夏目漱石や司馬遼太郎など、数多くの文学作品の舞台にもなった歴史とロマンにあふれる街を気ままに散策してきた。

<取材・文/鎌田 剛史 写真/鈴木 トヲル モデル/多田 有輝子>

街中に”ことばの泉”が湧き出る、全国でも指折りの文学の聖地。

国内における「現存十二天守」の一つ「松山城」のお膝元・愛媛県松山市は、『日本書紀』にその名が登場する日本最古の温泉「道後温泉」や、四国八十八ヶ所霊場「石手寺」などの歴史スポットが豊富に点在する全国有数の観光都市だ。また、日本を代表する俳人・正岡子規の故郷であるとともに、夏目漱石の『坊っちゃん』や、司馬遼太郎の『坂の上の雲』をはじめとする数多くの文学作品の舞台となるなど、日本文学の聖地としても広く知られている。街を少し歩けば、俳句ポストに投稿する老若男女の姿や、心に染み入る言葉が描かれた路面電車が走る町並みなど、松山ならではの光景に巡り会う。歴史と文学、そして言葉そのものを愛し慈しむ風土が、この街には深く根付いている。

正岡 子規(1867~1902)

『正岡子規集』 

中野三敏 ほか編 岩波書店

夏目 漱石(1867~1916)

『坊っちゃん』

夏目 漱石 著 岩波文庫/岩波書店

司馬 遼太郎(1923~1996)

『坂の上の雲 (全8巻)』

司馬 遼太郎 著 文春文庫/文藝春秋

Spot 01 「子規堂」

伊予鉄道・松山市駅に程近い「正宗寺」の境内にひっそりと佇む「子規堂」は、正岡子規が17歳まで過ごした邸宅を模した平屋建ての木造建築。邸内には子規の直筆原稿や遺墨、写真などの貴重な資料を展示しており、愛用机が置かれた勉強部屋も再現されている。寺の境内には子規の埋髪塔のほか、子規の幼名・升と「野の球」をかけて「野球(の・ぼーる)」の言葉を生み出した功績をたたえる碑も立てられている。また、子規堂の正面には、夏目漱石の小説『坊っちゃん』の中で「マッチ箱のような汽車」と記された「坊っちゃん列車」の客車も展示されている。

正岡家の菩提寺「正宗寺」境内に建ち、子規が17歳まで暮らした家を復元した「子規堂」。建物の南側にある墓地には、子規の埋髪塔や正岡家の墓も立つ。

直筆の原稿や手紙、遺墨などから、筆まめで鋭敏だった子規の人柄や性格を垣間見ることができる。

子規が松山中学に入学した際に作ってもらったという3帖の勉強部屋もそのままに再現されている。

子規堂の正面には「坊っちゃん列車」の客車や、夏目漱石の銅像もある。

夏目漱石は1895年に松山中学校の英語教師として赴任。その時の様子を脚色して小説化したのが有名な『坊っちゃん』だ。同作で漱石が「マッチ箱のような汽車」と形容したのが伊予鉄道の客車。子規堂の向かい側に置かれた客車は実際に使われていたもので、こぢんまりとした車内の木製ベンチに腰掛ければ、明治時代の面影を感じることができる。

子規堂

住所/愛媛県松山市末広町16-3 開館時間/9:00~17:00(最終入館16:40) 料金/大人¥50 休館日/無休 ☎089-945-0400(正宗寺) https://shikido.ehime.jp

Spot 02 「松山市立子規記念博物館」

伊予鉄道の道後温泉駅から徒歩約5分の所にある「松山市立子規記念博物館」は、正岡子規を中心に松山の歴史と文学について理解を深められる文学系ミュージアム。館内には子規の直筆原稿や著書、親交のあった夏目漱石ら文人と交わした書簡など約300点が展示されているほか、子規の生きた軌跡などを分かりやすく紹介する映像コーナーなどが設けられている。子規と漱石が52日間にわたって同居した「愚陀佛庵」の実物大レプリカも見所の一つだ。常設展以外にも年2~3回の特別展や各種イベントが開催されている。

正岡子規を中心に、夏目漱石や松山が生んだ文人たちの業績を集大成した博物館。市民の知的レクリエーションや、学校の課外学習、研究者の研究機関の場としても広く親しまれている。

館内では子規ゆかりの品々が多数展示されており、その生涯を追うことができる。

設展示コーナーは、「人間正岡子規」をテーマに、「道後・松山の歴史」「子規とその時代」「子規のめざした世界」の3つのコーナーが設けられている。

復元展示されている「愚陀佛庵」は、松山中学校で英語教師だった漱石が下宿していた建物。1895年に松山に戻った子規はこの庵でしばらく漱石と同居し、俳句革新ののろしを上げたとされる。

子規の「絶筆三句」を映像で紹介するコーナー。死の直前に詠んだ「おとといの へちまの水も 取らざりき」「糸瓜咲て 痰のつまりし 仏かな」「痰一斗 糸瓜の水も 間にあわず」の辞世の句が幻想的に浮かび上がる。

松山市立子規記念博物館

住所/愛媛県松山市道後公園1-30 開館時間/5/1〜10/31 : 9:00〜18:00(入館は17:30まで)、11/1〜4/30 : 9:00〜17:00(入館は16:30まで) 料金/一般¥400、65歳以上¥200、高校生以下無料 休館日/火曜日(祝日の場合は翌日) ☎089-931-5566 https://shiki-museum.com

Spot 03 「松山城」

山頂に松山城が鎮座する勝山は、市民から「城山」の愛称で親しまれ、心の拠り所となっている。大天守をはじめ城内の至る所から、松山市街から遠く佐田岬半島までを一望する絶景を満喫できる。

松山市街中心部にある勝山に築かれた「松山城」。関ヶ原の戦いで活躍した初代藩主の加藤嘉明が1602年から四半世紀もの歳月をかけて築城した山城で、国内における「現存十二天守」の一つ。瓦の葵の御紋や、日本で唯一となる櫓など、城内の21棟が重要文化財に指定されている。山頂には本丸が、裾野には史跡庭園となっている二之丸と、堀之内公園となっている三之丸が広がり、松山のシンボルとして広く市民に愛されている。山頂までは4つの登城道とロープウエー・リフトで上がることができ、年間を通じて国内外から多くの観光客が訪れている。

桜の名所としても知られる本丸広場から眺める天守の雄大な姿。広場には売店もあり、「蛇口から出るみかんジュース」などで一息付ける。

松山城

住所/愛媛県松山市丸之内1 開館時間/2~7月・9~11月:9:00~17:00、8月:9:00~17:30、12~1月:9:00~16:30 料金/中学生以上¥520、小学生¥160、小学生未満の子どもは大人1名につき2名まで無料(ロープウェイ料金別途) 休館日/12月第3水曜日 ☎089-921-4873 https://www.matsuyamajo.jp

Spot 04 「湯の町散策」

愛媛を代表する観光地・松山市道後。日本最古の温泉「道後温泉本館」の周辺には、ご当地グルメや買い物が楽しめるアーケード街のほか、神社仏閣のパワースポット、俳句や文学に関する資料館など見所が多い。街のあちらこちらに誰もが投函できる俳句ポストが立っており、先人たちに思いを馳せつつ、レトロな街の風景を題材に俳句を詠むのも道後を訪れる楽しみの一つだ。

「松山城ロープウェイ」の建物入口に佇む「坊っちゃんとマドンナ」の銅像。

ロープウエー乗り場周辺の商店街には飲食店や土産物店が並ぶ。お腹がすいたら愛媛のご当地グルメ「鯛めし」で腹ごしらえ(「GANSUI TAIMESHI STAND」 https://www.gansui.jp)。

道後温泉駅前の広場「放生園」にある「坊っちゃんカラクリ時計」。隣には道後温泉の源泉を使った足湯もある。

レトロな駅舎の伊予鉄道・道後温泉駅からは、ディーゼル機関車で復元した「坊っちゃん列車」が運行されている。

多くの土産物店などが軒を連ねる商店街「道後ハイカラ通り」。

「道後温泉本館」は2024年まで改修工事中。建物は現在ポップな柄の幕ですっぽりと覆われている。

愛媛のソウルフード「じゃこ天」も味わいたい。

一遍上人の誕生地といわれる「宝厳寺」。境内には子規の句碑や斎藤茂吉の歌碑などが立っている。

四国八十八ヵ所霊場の第51番札所「石手寺」。国宝の二王門や、国の重要文化財に指定されている本堂、三重塔、鐘楼など見所がたくさん。

Spot 05 「坂の上の雲ミュージアム」

司馬遼太郎の小説『坂の上の雲』をテーマに、松山の街全体をフィールドミュージアムとする構想の中核施設として2007年にオープンした博物館。同作品の主人公である松山市出身の秋山好古・真之兄弟と、正岡子規の3人の生涯を通し、近代国家へと成長していく激動の明治時代を歩んだそれぞれの足跡を貴重な資料などで分かりやすく紹介している。小説、主人公、松山、明治という時代など、毎年テーマを変えて展示を行っているほか、コンサートや朗読会、各種講座など、さまざまなイベントも開かれている。

建物は建築家・安藤忠雄氏による設計。松山城周辺の歴史や文化を意識し、自然環境にも配慮したデザインになっている。同館の西側に隣接する国の重要文化財「萬翠荘(ばんすいそう)」は1922年築のフランス風洋館。大正ロマンの風情を今に伝える貴重な建築物で、併せて訪れたいスポット。

坂の上の雲ミュージアム

住所/愛媛県松山市一番町3-20 開館時間/9:00〜18:30(最終入館18:00) 料金/一般¥400、高齢者・高校生¥200、中学生以下無料 休館日/月曜日(休日の場合は開館) ☎089-915-2600 https://www.sakanouenokumomuseum.jp


松山の街の魅力は「松山市公式観光WEBサイト」でチェック! https://matsuyama-sightseeing.com

この記事を書いたのは…
瀬戸内民家シリーズの雑誌表紙

瀬戸内海沿岸の岡山・広島・山口・香川・愛媛・兵庫各県で家づくりを手掛ける腕利き工務店の情報に加え、瀬戸内の自然や気候風土、歴史、文化といった、瀬戸内で暮らす魅力を発信しています。さらに詳しく>

瀬戸内の文学にスポットを当てた読み応え十分の特集記事は本誌でぜひチェックを。

https://www.setouchiminka.jp/hiraya/book/hiraya.html/

「せとみんガールズ」の取材風景や、本誌未掲載写真などはInstagramでも更新中!

画像に alt 属性が指定されていません。ファイル名: f646757ae2047b5e17da27ceb2017438-1024x230.jpg

トップページに戻る