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【職人青春グラフィティ】“学校”から建築職人デビューへ。~「匠の学舎アカデミー 技心館」の挑戦~

建築職人になるには、住宅会社に入社する、大工、左官、鳶、内装工など各分野の親方に弟子入りし、作業を共にしながら修行期間を経て…という以外にも、最近は道があるようだ。中学校卒業後から建築職人のプロフェッショナルを目指せる学校「匠の学舎アカデミー 技心館」。全国でも珍しいこの学校があるのは、“こんぴらさん”の呼び名で広く親しまれている「金刀比羅宮」のおひざもと、香川県琴平町。全国から大勢の参拝客を迎え入れ、古き良き門前町の風情が残るこの街で、建築職人の育成と人間形成に尽力する大人たち、そして、技術の習得と研さんに汗を流す若者たちの姿を追った。

<取材・写真・文/鎌田 剛史>

未来が見えない子どもたちを、“一生飯が食える”ようにしてやりたいんです。

若者らしく威勢のいい笑い声が響く教室。学生たちはここで授業を受ける。現在は常勤・非常勤合わせて5人の教師が教鞭をとっている。外部からは現役の職人や設計士、工務店社長などのプロを講師として招き、専門的な知識や技術を指導している。この日は3年生が卒業製作の作品について話し合っていた。

建築業界と若者たちの輝かしい未来のために。

次世代技術の著しい進歩で急速に変化している時代。メディアでは最先端を追いかける仕事が華やかにフューチャーされている。そんなカッコいい世界に将来の夢や希望を抱く若者も多い。

しかし、そんな中でも「自分には己の持つスキルを生かし、じっくりと取り組む職業の方が合っているかも」と感じている若者だって当然ながらいる。これまで培われてきた技術や伝統文化を継承し、高度な家づくりを追求する建築職人は、まさにそんなイメージにぴったりかもしれない。ただ、具体的にどうすれば建築職人の道に進めるのか、そのきっかけはなかなか想像しづらいのも確かだ。中学校を卒業し、高校や専門学校には進学しないことを選択した人ならばなおさらだろう。だからといって、自分で親方や師匠を見つけ、「弟子にしてください」と押しかけるのも、現代の若者にとってはハードルが高すぎる。

香川県琴平町にある「匠の学舎アカデミー」は、そうした状況で、自分が進みたい道への第一歩を踏み出すきっかけを見いだせないでいる若者を、本格的な建築職人に育成するための学校だ。善通寺市で総合建設会社を経営する白川勝さんが、平成28年に立ち上げた。本業のかたわら、同校の理事長として学生たちをあたたかく見守っている。「建築業界は今、深刻な職人不足に陥っており、これからを担う後継者を育てることが急務。若い職人を教育するには最低10年はかかるのに、若者が入って来ない状況に危機感を覚えています。そんな時代だからこそ、業界の明るい未来のために、私たちが微力ながらも一石を投じることができれば」と白川理事長は話す。この学校をつくるきっかけとなったのは、約30年前から里親として子どもたちを数多く受け入れてきた経験からだという。

「ある時、親の育児放棄などで乳児施設に預けられ、その後は養護施設を転々としている子どもたちの存在を知って。この子たちに少しでも親の愛情をかけてやることができればと思い、里親に名乗りを上げたんです。これまでに30人ほどの子どもたちを受け入れましたが、そのうち建設業を志した子は、私が経営する会社に迎え入れ、社員として育ててきました。その延長がこの学校なんです。生徒の中には少々やんちゃで手を焼く子もいますが、みんな可愛い私の子どもみたいなもんです」。

「金刀比羅宮」の参道近くにキャンパスがある。壁面に描かれた職人たちの愛らしいイラストは、地元・琴平小学校の子どもたちが描いたもの。

館内には教室のほか、1・2年生のための実習室、遠方からの学生のための寮などが完備されている。

元病院だった建物を白川理事長が買い取り、私費を投じて全面的に改装した。部屋の表札など、所々に病院時代の名残も残っていた。

写真提供/匠の学舎アカデミー 技心館
写真提供/匠の学舎アカデミー 技心館

磨き抜かれた技術を持った職人が学生たちに手とり足とり指導。あらゆる専門的なスキルはもちろん、礼儀正しさや勤勉さといった職人としてきっちり仕事をこなしていくための「当たり前」を徹底的に教え込む。

写真提供/匠の学舎アカデミー 技心館

学生たちの成長を願う白川理事長。建物内に住居を構え、学生たちと寝食をともにしている。

この学校での経験を通じて、社会から求められる人材に。

「匠の学舎アカデミー」の在学期間は3年間。「人生の中で必要となる知識と、職人になる技術を身に付ける」を教育方針に掲げ、ユニークなカリキュラムと、独自の育成プログラムを組み、指導している。

基本コースの授業は、週の前半が座学。英語、国語などの一般科目に加え、生活、道徳、華道、書道などの人格形成に必要な科目を設定している。希望者は提携している通信制高校のカリキュラムを受講し、高校卒業の資格を得ることも可能だ。

授業の大半を占めるのが協力企業での実地訓練。1年生の間は生徒自身にどの職種が適しているかを見極めるため、大工、左官、型枠大工、鉄筋、鳶、土工、塗装、内装など、建設業の全職種を2週間ずつ体験。2年生からは自分に合った業種に特化し、専門知識を本格的に学ぶことになっている。必要な資格取得も手厚くサポートし、技能士育成にも力を入れている。

また、不登校や引きこもりに悩む子どもたちの育成を支援する「SOLかがわ」も併設。現在は3人の生徒が自立に向けて、実習体験やレクリエーション、高校卒業資格取得のための学習に毎日励んでいる。

こうした同校の取り組みは、「匠の学舎 建築職人育成事業」として香川県も支援。だが、補助金などの公的制度はまだまだ十分とはいえず、財政的にも厳しい状況が続いているという。今後はさらなる安定した学校運営を図るため、学校法人化するとともに、職業訓練校としても認定されることを目指している。

「高校へは行かずに、早く働きたい」。そんな子どもたちに“目的”と“猶予期間”を与えたい。

若者は貴重な“資源”。地域活性化に貢献したい。

「高校へは行かない。早く働きたい」という道を選び、この学校へやってくる子どもたちは、まだ15歳。人間としてはまだまだ未熟で、社会に出るには少し早いともいえる。だが、義務教育を終え、進学しない子どもたちを公的に支援する仕組みは、十分に整っていないのが現状だ。

「そんな状況だからこそ、子どもたちには実際の建築現場を体験しながら、高校卒業の資格を取り、社会に出るための“猶予期間”を持てるようにしてやりたいんです」と、熱い眼差しで言葉に力を込めるのは神原孝吉校長。この学校で過ごす間にさまざまな大人と出会い、自分にとって心から信頼できる人と巡り合える機会をつくってあげたいと子どもたちへ思いを馳せている。

「私たちが行っているのは、学生一人ひとりが自分に自信を持ち、人としての心を豊かにする授業。勉強が嫌いな子でも、ここできちんと目標を持って努力すれば一人前の職人になれます。彼らが職人の技術と知識はもちろん、社会人としての礼儀やマナーを習得し、地元の建設会社へ就職するなどすれば、香川の活性化にもつながります。みんなが建築業界の明日を背負って立つ立派な職人になってほしいですね」。

専門技術の習得とともに、人間的成長も目覚ましく。

学生たちは同校と協力関係にある企業の建築現場や作業所に訪問し、一線で活躍している職人たちと一緒にあらゆる作業を体験する。現場の雰囲気や人間関係の厳しさ、作業の苦しさ、完成した達成感をその身で感じ取り、自分がなりたいものを見つけ出すきっかけを与えている。

職人の修行をするうちに、腕前だけではなく、人間的な成長を遂げる学生も多い。真摯に技術を学びながら作業に集中する姿は、受け入れ先の職人たちにも大きな刺激になっているという。3年生の彼らは週4日、協力企業の下で技術習得に汗を流している。同校が開校して以来初めての卒業生となる3人の現場におじゃました。

「自分が塗った現場が完成したら、めっちゃ達成感あります」

坂出市のとある純和風邸宅の建築現場。山本綜太くんが2階に上り、コテを右へ左へと動かしていた。炎天下にも負けず、真剣な眼差しでコテの先を一心に見つめている。聞けば漆喰の下地を塗っているのだとか。

山本くんは左官職人を目指している。壁や床などの平面と対峙する毎日だ。まだ下地塗りなど基礎的な仕事しか任せられていないが、ベテランの先輩たちと一緒に作業するのは楽しいと屈託のない笑みを見せる。

「この学校に入るまで職人にはまったく興味なかったけど、たくさんの職人さんたちと出会って話すうちに、建築の面白さをだんだんと感じるようになりました。いろんな職人を体験した中で、板金工にも興味があって迷ったけど、一番自分に合ってると思ったのが左官。現場の雰囲気もよかったし、親方や先輩たちも優しい人ばかりだったので」。

うつむき加減で少し恥ずかしそうに答える山本くんのとなりで、彼の面倒を見ている丸亀市の「行成左官」代表・行成俊之さんは優しく目を細める。「1日も休まず真面目にやってますよ。現場の大工さんや他の職人たちからも可愛がられてます。人柄がよくて愛嬌もあるからね。まだ学生なので本格的な左官の仕事は教えていませんが、このままずっと続けるというなら、一人前の職人に育っていくんやないかな」と、山本くんの仕事ぶりに太鼓判を押す。

「左官の現場は年々減る一方。それとともに職人の数もどんどん減っています。やはり3Kの職場というイメージが定着していることもあって、建築職人になりたいという若者も少ないですよ。そんな現状だから『匠の学舎アカデミー』の取り組みは、われわれにとってはありがたいですね。建築業界の未来のためにも、ぜひ頑張ってもらいたいです」。 

職人としての成長に期待を寄せる行成代表(右)。山本くんは左官になることは決めているが「行成左官」で働くかは未定。


高校受験落ちて、どうしようかと思ってた時、中学校の先生に「建築職人の学校はどうや」って勧められて。何になりたいか全然考えてなくて「まあ、何もせんよりマシやろ」と思って入学しました。現場体験でいろんな仕事をやってみたけど、左官が一番面白かった。親方がいい人で、職人さんたちと話しながら作業するんも楽しかったし。1年ぐらい下地とか塗らせてもらったりしよるけど、やっぱり難しいです。金ゴテを使うんとか苦手で。でも、自分が塗った現場が完成した時は達成感があります。先輩たちは仕事が早いし、キレイやし、ホンマにすごい。学校を卒業したら左官職人になるつもり。将来は独立したいです。建築関係の仕事をしている地元の連れたちとは「いつかみんなで一緒に何か作れたらええな」って、話してます。

山本 綜太

将来の夢:一人前の左官になってスポーツカーを買う
好きな食べ物:オムライス
嫌いな食べ物:ない
趣味:友達と遊ぶこと、ショッピング


「大工仕事は難しくて大変だけど、やりがいも感じています」

善通寺市の筆ノ山、我拝師山のふもとに広がる緑の田園風景をバックに、曇り空の隙間から差す陽光に照らされて輝きを放つ白いヘルメットが縦横に動いている。棟上げで組み上げられた梁の上を大窪亮くんが華麗な足さばきでスイスイ歩いていた。平屋の家とはいえ、地上からは3m近くの高さがある。手摺もない高所での作業は怖くないかと尋ねると「怖いです」とポツリ。現場での実習は約1年半になるものの、なかなか慣れないのだという。「大工の仕事は難しいし、体力的にもキツイです。屋外での作業が大半だから、今日のような蒸し暑い日にはヘトヘトになります」と、日焼けした頬をつたう汗をタオルで拭きながら話してくれた。

大窪くんの実習先は、白川理事長が代表を務める善通寺市の「大企建設」。一般住宅や施設・店舗の新築・増改築などを幅広く手掛けている。あらゆる現場に大窪くんも帯同し、職人たちからの指導を受けている。

「彼も人間的にずいぶん成長しました。物静かですが、きびきびと動いている。この1年で体つきも引き締まってきましたね」と話すのは同社の横田修一さん。「匠の学舎アカデミー」の事務長も務めている。「まあ、いろいろと、ありましたけどね…」と苦笑いを浮かべながらも、梁の上で汗だくになって木槌を振り上げる大窪くんの姿をじっと見守っていた。


大工の仕事は大変で全部難しいです。インパクトや丸ノコとかの道具もまだまだ上手く使えてないです。建築職人の学校へ入ろうと思ったのは中学校の先生に勧められたから。1年生の時、いろんな職種をやってみた中で大工が一番面白いかなと思って選びました。最初のころは辞めたいと思ったこともあります。夏とかめちゃくちゃ暑いし、体力的にもしんどいし。でも、辞めてしまったらここまでやってきたことが全部無駄になってしまうと思ったから、ずっと頑張ってきました。今では大工の仕事の楽しさも感じるようになりました。卒業したら大工になるつもりです。そして、将来は独り立ちもしたい。いつかは大きくて立派な家を、自分の手でつくってみたいです。

大窪 亮

将来の夢:大工になっていつか独立する
好きな食べ物:ない
嫌いな食べ物:オクラとかネバネバ系
趣味:釣り


「ゼロからモノを生み出す職人は、やっぱスゲーって思います」

「高校受験に全部スベってしまって。先生に建築職人の学校を勧められたけど、最初はピンとこなかったです」と話すのは伊藤優玖くん。高校には行かないと決めたものの、これから先どうしていくかが分からず、とりあえず入学することにしたという。「ボクは昔から絵を描いたり、モノをつくったりするのが好きだったんです。考えてみれば、ゼロからモノを生み出す職人もクリエイティブな仕事だなと思って、行ってみようかと」。

実習に通っているのは、高松市で造作家具の製作や店舗の企画・設計などを手掛ける「彩美」。木材の香りが漂う作業所の一角で、伊藤くんはひとり黙々と収納ボックスの枠に化粧板を貼る作業に励んでいた。

「ここに初めて来た時は、先輩たちが何をしゃべっているのかまったく理解できませんでした。専門用語がバンバン飛び交って、『みんな何語しゃべっりょん?』って感じで(笑)。設計図を見ても何のことを書いているのかさっぱり分からなかったですけど、今ではだいぶ意味が分かってきました。家具製作の楽しさもだんだん感じてきたし。現場への搬入にも行くんですけど、自分が作った家具が取り付けられて完成したのを見ると、やっぱり感動します。自分で家具をデザインすることにも関心がわいてきています」と目を輝かせる。

「彩美」の塚本正洋代表は「他の職人たちと仲良く楽しそうに作業してますよ。最初は時間がかかっていた作業にも慣れてテキパキできるようになりましたし。辛抱強くやってると思いますね」と、伊藤くんの働きぶりを高く評価している。

自分のことを褒める塚本代表の横で照れ笑いしつつ、伊藤くんは「ここでいろいろと皆さんに教えていただいて、塚本代表にもお世話になってるんですけど…。実は、学校を卒業したら、家具職人とは別の道を進もうと思ってるんです」と、少し申し訳なさそうに頭をかいた。

伊藤くんが今夢中になっているのが自転車。高松市の自宅から琴平町の学校まで片道約20㎞の道のりを自転車で通学しており、愛好家が集うチームにも在籍するほど熱を入れている。「卒業後はしばらく飲食店のアルバイトで資金を貯めて、準備ができたら東京か大阪で自転車を扱う企業に就職するつもりです。家具職人にはなりませんが、学校の授業や実習での経験はこれから先にもきっと生かせるはず。家具製作の技術や知識はもちろん、社会人としてのマナーや仕事に対する意識など、人生で大切なことを学ぶことができたので、本当によかったと思っています」。

塚本代表は少し残念ではあるものの、夢を追いかけようと希望に胸を膨らませている伊藤くんを理解し、その背中を押してあげている。「10代で自分の生き方を決めてしまうのは難しいですからね。若いうちは自分がやりたいと思ったことにいろいろと挑戦すればいいと思っています。やってみて初めて分かることもあるし、何度でもやり直せますから。実は私も、家具職人の道に入ったのは20代後半なんですよ。だから、彼にはぜひ頑張ってもらいたいですね。『ダメだった時にはいつでも帰ってきていいよ』とも、言ってるんですが(笑)」。

都会へ出る資金が貯まるまで、ここで働けばよいのでは?と尋ねてみたところ、伊藤くんは首を横に振り、きっぱりと答えた。「家具製作の仕事も、この会社もイヤじゃないんです。ただ、長い間ここにいると、自分に甘えてしまいそうだから。楽しくて居心地もいいし、みんな優しいので」。


勉強は嫌いでした。宿題なんかやらなかったし、授業もつまんなくて。自分の好きなことしかやりたくない性格なんですよね。高校受験に失敗して、どうする?ってなった時に、学校の先生から紹介されたのが建築職人の学校で。小さいころから絵を描いたり、モノを作ったりするのが好きだったんで自分に向いてるかも、と。建具職人を選んだのは、実習先が家から近いのも理由。他の職種を選ぶと朝家を出るのが相当早くて、毎日弁当を作ってくれる母に悪いかなと思って。職場は楽しいですよ。先輩たちは優しく教えてくれるし。自分が作ったものが現場に取り付けられたのを見ると「オオッ!」って感動します。将来ですか?実は…好きな自転車関連の仕事に就きたいと思ってます。だけど、今ここで学んでいるすべては今後きっと役立つはず。だから、卒業までは精いっぱい頑張ります。

伊藤優玖

将来の夢:自転車関連の仕事に就き、好きなコンポで自分の自転車をつくる
好きな食べ物:うどん
嫌いな食べ物:生魚、味噌煮、食べ方が面倒くさいもの
趣味:自転車、アコースティックギター


彼らのひたむきな姿を見るたびに、思うんです。「この学校を続けんといかんな」と。

写真提供/匠の学舎アカデミー 技心館

白川理事長自ら教壇に立って指導することも。学生集めが目下の課題。同校の職員・教師たちが県内の中学校へ足を運び、学校への理解を求めるとともに、知名度向上に努めているという。

額に汗して作業する若者。育てる使命感に心燃やして。

「職人さんたちの中には怖い人がいるし、教え方が荒いことも。中学校を出たばかりの子どもたちにとっては最初にぶつかる試練でもあります」と、穏やかに話してくれたのは、同校職員の香川良太さん。企画部長を務め、学校運営に関するさまざまな業務とともに、実習現場への送迎も担当している。

「最初は慣れていないこともあって、迎えに行くと疲れ果てて落ち込んでいる子が多いんですよ。だから移動する車の中ぐらいはリラックスさせてやりたくて。がっくりと肩を落としている子の愚痴を聞き、励ましてやったりしています。思春期真っ盛りの若者ですから喧嘩みたいになることもありますけどね。だけど月日が経っていくうちに、未熟で礼儀知らずだった子の顔つきや態度が著しく変わってくるんです。人としてどんどん成長していく彼らの姿をそばでずっと見守れるのはやっぱりうれしいし、感慨深いですよ」。

白川理事長も香川さんの言葉に頷きながらこう続けた。「私もたまに現場を見に行くんですけどね。ベテラン職人たちの中で、まだあどけなさが残るうちの学生が一緒に作業しているんですよ。一生懸命にね。高齢で引退も間近であろう職人たちと、次の時代を担うフレッシュな若者が一緒に現場に立っている。こんな光景を見るたび、胸にぐっと熱いものがこみ上げてくるし、この学校を立ち上げてよかったとしみじみ実感しますよ。だからこそ、この『匠の学舎アカデミー』を今後も継続していかなければと切実に思っています。クリアしなければならない課題は山積していますが、一人でも多くの子どもたちを立派な職人、人間として育て上げ、社会に送り出してあげたい」。

職人という仕事を選ぶことは、当然ながら楽な道ではない。だからといって、決して選ぶことができない道というわけではない。「匠の学舎アカデミー」の学生たちは、自らが選択し決めた職人への道を、それぞれの足取りで歩み続けている。そんな彼らの周りには、親心に満ちたやさしい眼差しで手を差し伸べ、叱咤激励してくれる白川理事長や神原校長、香川さんをはじめとする信頼できる大人たちがいる。そして、若さと活力あふれる学生たちの可能性に大きな期待を寄せる職人たちが見守っている。その誰もが一点の曇りもない、輝かしい明日が来ることを信じている。 

取材協力/匠の学舎アカデミー技心館

香川県仲多度郡琴平町45
☎0877-89-1676
https://takumi-manabiya.com

※文章の内容、写真、情報は2019年の取材当時のものです。

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