岡山県内でも有数の生産量を誇るタケノコの産地、倉敷市真備町。青々と繁る竹林が美しく広がるのどかなこの町で、竹が持つ特性を最大限に引き出し、良質な製品づくりにまい進する企業がある。間伐で不要となる竹を活用し、デザイン性の高い家具を生み出す「TEORI(テオリ)」だ。ほかの木材よりも堅く、しかも弾力性に富む竹を、独自で編み出した加工、接合技術で丁寧に仕上げた製品の数々は現在、国内外から高い人気を博している。真備町の恵みともいえる竹に秘められた可能性を探求し続ける「TEORI」の魅力に迫る。
<取材・文/鎌田 剛史 写真/鈴木 トヲル>
目次
竹の里に生まれた唯一無二のオリジナル家具。
棄てられるだけの竹に新たな息吹を与えて。
「TEORI」は1989年創業。その社名はドイツ語の「基本・初心」という意味に由来する。原点を大切にしながら、ものづくりと真摯に向き合いたいとの思いを込め、社長の中山正明さんが名付けた。
当初は、主に木材を用いた家具部品の加工を行っていたが、中山さんは「質が高く、誰もが末永く愛用できるオンリーワンの商品を開発できないだろうか」と思いを馳せるようになった。そこで目を付けたのが、地元の竹だった。
真備町はタケノコの産地。良質なタケノコを作るため定期的に間伐を行うが、地域の人たちは伐採した竹の処理に手を焼いていた。廃棄される山積みの竹を見て「この竹を素材として有効に活用できるのでは」と考えた中山さんは、竹製家具の開発に乗り出す。自社ならではのオンリーワン商品となるのはもちろん、地域のためにも貢献できると確信。竹という素材に活路を見出し、独自の研究に着手した。
木の中でもっとも堅いといわれ、弾力性にも優れている竹。小学生のころに使っていたという人も多いであろう竹製の物差しを思い浮かべると分かるように、温度や湿度によって長さに狂いが生じるということがほぼない。だが、その堅さゆえに加工しにくく、繊維の方向に対しては亀裂が入り割れやすいという難点がある。また、夏場には虫が付きやすく防虫処理が欠かせないという課題もあった。
中山さんは、県内外の工業試験場へ何度も足を運び、相談・助言を求めるなどしながら、竹製の家具を具現化する策を求めて東奔西走。約1年にわたって試行錯誤した結果、「乾留釜」を使い、竹の不要な栄養分を取り除き、炭化することによって硬化を行う独自の方法を編み出すことに成功する。さらに、家具の材料となる集成材の開発や、加工技術についても探求。1998年、ついに竹の集成材の製造にこぎ着けた。
それ以来、竹の集成材から家具や小物をはじめとする多彩な製品を生み出し続けている「TEORI」。本社工場では「郷土の竹を生かし、デザイン性が高く、長く使える家具を造りたい」という中山さんの信念の下、職人一人ひとりが品質の高い家具づくりに毎日汗を流している。
「TEORI」本社内の組み立て工場。自社を代表する竹製家具のほか、公共施設や企業から依頼されたオリジナル家具を製作している。使う人すべてに良質な商品を提供できるよう、職人一人ひとりが思いを込めて作業に集中していた。
工場内には積層が描く模様が美しい竹の集成材が山積みになっていた。これまで竹の持つ特性をとことん研究し、独自のさまざまな加工・接合方法を考案してきた「TEORI」。機能性とデザイン、コストのバランスに優れたモノづくりを追求し続けている。日ごろから技術と品質向上に向けた研究開発にも余念がない。
「TEORI」が誇る竹製商品「ZERO」の製作風景。竹独自のしなやかな曲げ特性を生かした壁掛けミラーで、ヨーロッパでも人気を集めている。シンプルながらも美しいデザインの逸品が生み出されるのは、熟練した職人たちの技があってこそ。綺麗に整理整頓が行き届いた工場では、従業員たちが機械作業や手作業を手際よくこなしていた。
本社からほど近い場所にある集成材の専用工場。地元・真備の竹も用いた集成材を製造している。
自然と暮らしに溶け込む竹の家具はどこかホッとする、なぜ?
珠玉の竹製家具に世界から熱い注目。
竹ならではのしなやかさを生かしたやわらかで上質なフォルム、そして、細かな木目が描き出す洗練された美しさ。それが「TEORI」の生み出す家具の真骨頂だ。竹の特性を最大限に引き出し、フレキシブルな魅力にあふれている。チェア、テーブル、ソファ、インテリア小物など、丈夫で大きなものから小さく繊細なものまで、まさに変幻自在。その佇まいはシンプルモダンはもちろん、北欧スタイルや和モダンスタイルにもマッチする。竹にはリラックス効果や精神安定作用もあるといい、健康で潤いに満ちた生活を約束してくれる。抜群の強度と耐久性を誇り、長年愛用できることから、経年変化を楽しめるのも醍醐味。使い込んでいくうちに竹の色はだんだんとあめ色に変化し、使う人の手になじんでいく。何世代にもわたってしなやかに存在感を変えながら、日々の暮らしに優しく寄り添ってくれる逸品ばかりだ。
2006年から2年連続でグッドデザイン賞を受賞したのを皮切りに、2007年にはパリの国際見本市「メゾン・エ・オブジェ」に初出展を果たす。さらに、2008年に開催された洞爺湖サミットでは、世界のファーストレディ用の椅子として採用されるなど、その名をまさに「破竹の勢い」で岡山から世界へと広げている。
集成材に用いる竹は、現在は真備町産のほか各地のものを使用しているが、将来はすべてを真備町産で補う考えだ。そのためには、管理する人の高齢化などで維持が難しくなり、荒れ始めている竹林を再生させることが不可欠である。かつて地域に広がっていた美しい竹林を取り戻すことも自分たちの使命だと考えた中山さん。地元住民から処分に困っている竹を買い取ったり、委託された竹林を所有し、社員自らが清掃・管理を行うなど、地元の竹林保全にも精力的に取り組んでいる。
さらに、竹を通じて資源が循環する環境づくりにも力を入れている。竹を木材としてだけでなく、表皮に含まれる豊富な油分や抗菌性などに着目し、竹表皮塗料や入浴剤を開発したり、枝葉を粉砕してから発酵させ、竹林の土壌改良剤を製造するなど、伐採した竹を余すことなく活用している。
真備の竹を使った家具を造り続けると共に、地元の美しい竹林を守り、豊かな環境を育んでいく。それが「TEORI」の願いでもある。
竹の集成材は非常に堅く繊維が潰れにくい特性があり、一般的な木材の接合方法である「ほぞ組み」では強度を出すことが難しいことから、縦棒と横棒を交互に組み合わせる独自の工法を開発。「ほぞ組み」よりも頑丈な接合を実現している。
見ているだけで安らぎを感じる秀逸なデザインの家具や小物。これらのデザインを手がけるのは、岡山県立大学デザイン学部出身の6人のデザイナーたちだ。竹製品のさらなる可能性を見出すため、地元ゆかりのデザイナーと「竹集成材プロジェクト」を立ち上げ、毎月1回意見を交わす場を設けるなど、クリエイティブで多彩なアイデアを常に模索している。
ここからまた、新たな価値を創造する。凛々しく伸び続ける、真備の竹とともに。
未曽有の災害が意義ある節目に。
「TEORI」創業から30年目を迎える節目の年でもあった2018年、記録的な豪雨が真備町を襲った。本社のすぐそばを流れる真谷川も堤防が決壊。大量の濁流が社屋に押し寄せた。
「会社に駆け付けて惨状を目の当たりにした時は絶句しましたね…」と話すのは営業部長の監物正樹さん。工場内の柱の上の方を指さしながら、当時のことを振り返った。「あのうっすら線が残っているところまで、約2.2mぐらいかな。社屋の1階部分はほぼ浸水していました。隣のショールームも水没して、目も当てられないほど酷い状況でした」。
平成30年7月豪雨で被災した直後の写真。本社のすぐ近くを流れる真谷川から押し寄せた濁流は、本社のオフィスと工場、ショールームを容赦なくのみこんだ。大型トラックまで流されるという想像を絶する光景に、誰もが呆然としたという。
幸いにも社員は全員無事。被災の3日後には大半の社員が集まり、中山社長の陣頭指揮の下、瓦礫の撤去や清掃に取り掛かった。得意先の人たちも応援に駆け付け、復旧作業は急速に進んだ。社員や取引先の人々が一丸となり、4ヵ月後には工場の再稼働へとこぎ着けることができた。
「この災害を機に、社員全員の結束力がさらに高まったと思います。またここから一歩を踏み出していこう。そして、より素晴らしい製品を生み出していこうと。今思えば、私たちにとって気持ちを新たにする、意味のある節目だったのかもしれません」。
竹は驚異的なスピードで生長する。頭上に差し込む光に向かって、真っすぐに、凛としながら伸びていく。真備の竹を愛し、竹と向き合う「TEORI」もまた、新たなる光に向かって伸び続けていくに違いない。
「TEORI」自慢の家具がずらりと並ぶショールーム。豪雨で被災後に全面リニューアルし、以前にも増して魅力的な空間に生まれ変わった。
現在では被災前の状態にまで完全に復旧。「困難を乗り越え、社員全員が心機一転。ここからまた新たな道を歩んでいこうと、みんなが期待に胸を膨らませています」と監物さんは目を輝かせながら話した。
取材協力/株式会社 テオリ
岡山県倉敷市真備町服部1807
9:00~17:00(不定休)
☎086-698-4526
http://www.teori.co.jp
※文章の内容、写真などは2019年の取材当時のものです。
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