目の前に瀬戸内海、背後には中国山地と四国山地を構える瀬戸内地域の自然環境。そしてその自然に育まれた人文化と歴史。家の窓からのぞく遠くの山々、街に点在する田畑やふるさとの料理。これらは全て「風土」をひもとくことで、地続きにあることが理解できる。「風土」を知り、瀬戸内がどのような地域であるのかという解像度を上げることで、暮らしは豊かになるのではないだろうか。全5回に分けて、本誌に掲載しきれなっかった情報を織り交ぜつつ、瀬戸内の風土についてレポートしていく。
今回は第3回「瀬戸内の大地について」。瀬戸内の気候はもちろん、文化や人々の生活を支え育んできた大地に着目してみよう。
人を住まわせ、文化を育み、潤してきた大地と山々。
瀬戸内を囲う、中国山地と四国山地。
「瀬戸内地域」には、どこからどこまでが含まれるのかも難しい問題だ。よって本書では、中国山地より南、四国山地より北という範囲内での兵庫県、岡山県、広島県、山口県、徳島県、香川県、愛媛県としたい。
瀬戸内地域を挟む、中国山地と四国山地。「瀬戸内海式気候」の実現にはこれらの山地がなくてはならない。ユーラシア大陸からの冷気を伴った冬の季節風を中国山地が遮り、太平洋からの高温高湿な夏の季節風を四国山地が遮っている。このため冬は比較的温暖で、梅雨時期は他地域と比較して降雨量が多くなることがない。これらの山地による季節風の遮断に加え、瀬戸内海の活発な蒸発散も影響して、瀬戸内地域の温暖で安定した気候は実現しているのだ。
このように、瀬戸内地域に大きな恩恵をもたらしている両山地について見てみよう。中国山地は、大山と氷ノ山を除くと標高が高い山でも1300m以下となる、なだらかな稜線(りょうせん)が特徴的な山地。中国山地を境に、北側は「日本海岸気候」の山陰地方、南側は「瀬戸内海式気候」の山陽地方にわかれる。この2つの地方は、気候的にも文化的にも山地を隔てて大きく異なり、山の存在が人の営みに大きな影響を与えていることが分かる。一方で四国山地は、石鎚山や剣山をはじめとした1800m以上の山々が連なり、荒々しく雄大な稜線が特徴的で、中国山地とは対照的な山地となっている。中国山地よりも標高が高いために、中国山地を越えてきたり関門海峡を抜けたりした寒気の影響で、冬季には降雪量が多くなったり路面が凍結したりという現象が見られる。また、標高が高いことで山々の保水力が非常に高く、地下水に恵まれている。この地下水は環境省の「名水百選」に選出されるほど質が高く、湧き水として古来より人々の生活を潤してきた。
また中国山地は、製鉄産業が興っていたことがあり、映画『もののけ姫』のモデルになった山としても知られている。四国山地では石鎚山が西日本最高峰で日本七霊山にも数えられ、「霊峰」として山岳信仰の文化が根強い。両山地は地理的特徴と人文化的側面の双方から、瀬戸内地域に大きな影響を与える存在なのだ。
瀬戸内の土壌。
さて、ここで瀬戸内の土壌にも注目してみよう。瀬戸内地域に含まれる中国地方は、活断層が非常に少なく地形が全般的に平地であるため地盤が安定している地域といえる。四国地方も同様に、「中央構造線」という大きな活断層から外れていることに加えて平地のため、比較的地盤も安定している。このように瀬戸内地域には平地地形が多く、中国・四国両地方とも平野も多い。兵庫県の播磨/姫路平野、岡山県の岡山平野、広島県の広島平野、香川県の讃岐平野などが挙げられる。平野は土壌が豊かなために農作物の育成に適しているほか、地盤の強固さから開発が容易なため経済的にも発達しやすい。そのため、瀬戸内地域は安定した地盤の上で地震災害なども少なく、住み良い環境であると言える。
瀬戸内地域は、全般的にマグマが冷えることでできる花崗岩(かこうがん)が主の土壌となっている。花崗岩は風化すると掘削しやすくなったり細かな砂になったりと、少々もろい性質を持つ。しかし、平野地域では粘土質で強固な土壌も多く、過剰な心配は必要ない。
土壌的・地質的特徴は、岡山県の「備前焼」や山口県の「萩焼」、愛媛県の「砥部焼」など、焼物の伝統的工芸品が豊富であることからもわかる。中でも「萩焼」は、「大道土(だいどうつち)という砂や小石が多く鉄分の少ない土や、「金峯土(みたけつち)」というざらざらとした粘土製の土などを用いて作られる。土の特性を生かした、美しい工芸文化が発達するに至ったのだ。
参考文献
- 『瀬戸内海事典』南々社.2007
- 『海と風土-瀬戸内海地域の生活と風土』地方史研究協議会.雄山閣.2002
- 『新・瀬戸内海文化シリーズ1 瀬戸内海の自然と環境』柳哲雄.瀬戸内海環境保全協会. 1998
- 『新・瀬戸内海文化シリーズ2 瀬戸内海の文化と環境』柳哲雄.瀬戸内海環境保全協会.1999
- 『瀬戸内海の環境保全 平成13年度 資料集』瀬戸内海環境保全協会.2002.
- 『瀬戸内における水寛容を基調とする海文化』瀬戸内海環境保全協会.2015
- 『ふるさと日本の味9 瀬戸内・黒潮海の幸』第二アートセンター.集英社.1983
- 『瀬戸内海地域誌研究 第3輯』文研出版.1991
- 『宮本常一 瀬戸内文化誌』宮本常一.八坂書房.2018
- 『瀬戸内四国の自然』伊藤猛夫.六月社.1965
少しでも「へ~!」と思ってくれたら幸いである。知ることから得られる楽しみも、きっとあるはず。
第4回は「瀬戸内の産業について」をレポート。お楽しみに!
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