豊かな自然に恵まれた瀬戸内地域は、日本酒造りに必要な米、水、気候の条件がそろっている貴重な地域でもある。こうした良質な環境の下、瀬戸内沿岸の各県には、江戸時代から現代まで脈々と受け継がれている高度な技術で、美味い酒を醸し続ける酒蔵が多く存在。各蔵では、長年培った歴史と伝統を大切に守りつつ、現代の最新技術も取り入れながら、国内外の”酒呑童子”たちに愛される酒造りに精進し続けている。そんな数ある瀬戸内の酒蔵の中から、広島県で100年以上にわたって美味い酒を醸し続ける老舗「賀茂鶴酒造株式会社」を訪問。その製造現場を拝見しながら、酒造りに対する思いなどを伺った。
酒造りは人づくり。強い絆で結ばれた蔵人集団。
風情漂う赤い煉瓦の煙突が連なる酒蔵通り。名水と美味しいお米で有名な東広島市西条は古くから「酒都」として親しまれてきた。創業100年以上の歴史を誇る「賀茂鶴酒造」はそんな情緒豊かな町並みに佇んでいる。
「酒造りは人づくりです。蔵人一人一人と信頼関係を積み重ねて全員で酒づくりに取り組むうちに、どんどんお酒造りが楽しくなってきました」と穏やかな表情で答える杜氏の沖永浩一郎さん。その年の酒の味を決めてしまう重要な作業だからこそ、チームワークを高め信頼の置ける仲間とともに造ることがとても大切だと教えてくれた。「重視しているのは蒸米です。水の吸わせ方や蒸し具合が少し異なるだけで、いつもの味とはかけ離れたものになってしまいます」。
その年のお米の出来具合によっても左右される繊細な作業だが、それを「今年のお米は今一つだったから」という理由では片付けられない。どんな状況でも「賀茂鶴の味」を出し続ける、責任を伴う仕事だからこそ、やりがいを感じているという。
「最もこだわるのはお酒の味を決める麹づくり。水の吸わせ方が数分違うだけで、蒸し具合が少し違うだけで、酒は全く異なる表情を見せるんです」と、同社杜氏の吉永さんは話す。その日の天候によっても理想の蒸し方は変わるといい、自然の変化にうまく呼応しながらいかに理想を見つけることができるかがこの仕事の醍醐味だという。
営業や広報といった社内各部署や、蔵の外の人々との連携も大切だと吉永さん。「当社に息づく伝統を守っていくのはもちろんですが、時代とともに変化し続けるお客さまのニーズに応える酒造りに常に挑戦していかないと。変化に備えながら変化を楽しんでいきたいですね」と目を輝かせていた。
伝統を受け継ぎ、いつの時代も親しまれる賀茂鶴の味を。
同社では蒸米を作る際、昔ながらの木製の甑(こしき)を使い続けてきた。現在では原料に木片が混入するのを防ぐため、ステンレス製の道具が増えているものの、甑の材料である吉野杉は調湿作用が高く、蒸米には無くてはならないものと同社は考えている。今では甑自体を作成できる職人が少なくなり、唯一製作をしている会社からその技術を学んだという。「管理の面を考えても圧倒的にステンレス製の方が扱いが楽です。しかし、私たちが変わらない味を守り続けていくためには、この技術を受け継ぐしかないと思いました」。
いつの時代も変わらない味を提供し続ける背景には、伝統技術と蔵人の酒造りへの深い思いがあった。
味わい深いなまこ壁が迎える見学室直売所は、酒蔵の一号蔵を改装したもので、2019年にオープン。酒造りをじっくり学べ、身近に体感できるコーナーや販売ショップなど見どころが満載の施設。一号蔵は登録有形文化財に指定された明治時代初期の建造物で歴史ある建物自体にも魅了される。
代表銘柄 賀茂鶴
「大吟醸 特製 ゴールド賀茂鶴」は、桜の花びら型金箔入りの大吟醸酒。優雅な香りと芳醇な味わいが楽しめる大吟醸酒のさきがけ。賀茂鶴の杜氏から代々受け継がれてきた伝統の味。
【Editor’s TASTING!】
常温や冷やで飲むとフルーティな香りが楽しめ、燗にすると日本酒の旨みとキレの良さが際立つ。華やかな見た目から祝いの席にぴったり。
<1918年創業>
賀茂鶴酒造株式会社
【本社・醸造蔵】広島県東広島市西条本町4-31
082-422-2122 https://www.kamotsuru.jp
【見学室直売所】平日 9:00~18:00、土日祝日 10:00 ~18:00(入場17:45まで)※時期によって見学できない場合あり。詳細はお問い合わせください。
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