SETOUCHI MINKA

瀬戸内の伝統工芸士を訪ねて。~山口県・大内塗・大内人形~

木、草、土、石といった自然素材を高度な技術で加工した伝統工芸品は、はるか昔より日本人の生活や文化を支え続けてきた。人間の磨き抜かれた手から生み出される品々の繊細さと美しさは、日本が世界に誇れるもののひとつ。山口県にもさまざまな伝統工芸が今も残っており、先人たちが生み出し発展させてきた技法を一途に守りながら、研さんを重ね続ける匠たちがいる。古来より受け継がれてきた技や文化を、後世に残し伝えるという役割と責任を担いながら日々精進し続けている瀬戸内の伝統工芸士の仕事ぶりを拝見。伝統技術の保存と継承や、現代の暮らしへと融合させる工夫、そして、一貫して情熱を注ぎ続けるもの作りへの思いを伺った。

<取材・写真・文/鎌田 剛史>

大内塗・大内人形(経済産業大臣指定伝統的工芸品)/中村 功さん

まるっとした形と愛らしい表情に癒される人形。

静寂に包まれた作業場では、ひとりの職人が筆先を一心に見つめ、タマネギ型の人形の顔に墨で1本の線を引いていた。左から右へゆっくりと筆を動かす。眉間にしわを寄せ、その出来を眺めた後、ふきんでスッと線を消した。「人形は目が命。長年ずっと描いてますが今でも難しいですね。角度や長さがほんの数mm違うだけで、表情がまったく変わってしまう。1個1個納得いくまで何回も引き直します」と語る中村功さんは創業約100年を誇る「中村民芸社」の3代目で、弟の建さんとともに「大内塗」の漆器・人形を下地から蒔絵付まですべて手作業で製作している。

まるまるとしたおちょぼ口の顔。細く切れ長で垂れた目元が特徴の大内人形は、夫婦円満の象徴として慶弔事のお祝いや土産物として古くから親しまれている。

絶滅寸前だけど、多くの人に喜んでもらえるものを粛々と作り続けるのが私の使命。

大内塗は約600年にわたり山口県山口市を中心に受け継がれてきた漆製品。朱色の漆の下地に金箔の大内菱を配し、秋の草花を添えて描いた優雅な絵模様が特徴だ。この漆技法を生かして作られるのが大内人形で、現在は漆器よりも盛んに製造されているという。

中村さんは伝統的な夫婦人形のほか、五月人形やひな人形、カラフルな色や目・口といった顔のパーツを自由に選べるオーダーメード人形など、現代仕様へとアップデートした多彩な製品を開発。若い世代の人からも人気を集めているそうだ。「大内塗を作っている事業所も今では市内に5軒ほど。もはや絶滅寸前ですが、僕らにできることは、多くの人に喜んでもらえるものを作り続けることだけです」。中村さんはそう話し、鼻先まで眼鏡をずらすと、人形の目をまた静かに描き始めた。

「中村民芸社」では色鮮やかなオーダー人形や、ロシアのマトリョーシカを模した人形など多彩な商品をラインアップ。同じく山口を代表する伝統的工芸品の萩焼に大内塗の漆技術を施した「山口陶漆器」のほか、建さんの妻・理恵さん発案の雑貨やアクセサリーなど、大内塗の可能性を広げるための新製品開発にも余念がない。

中村民芸社

山口県山口市大内御堀4138
☎083-927-0619
10:00~17:00
水曜日定休(祝日の場合はその前後)、12/30~1/3、8/13~15休 
https://nakamuramingeisha.jimdo.com

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