木、草、土、石といった自然素材を高度な技術で加工した伝統工芸品は、はるか昔より日本人の生活や文化を支え続けてきた。人間の磨き抜かれた手から生み出される品々の繊細さと美しさは、日本が世界に誇れるもののひとつ。岡山県にもさまざまな伝統工芸が今も残っており、先人たちが生み出し発展させてきた技法を一途に守りながら、研さんを重ね続ける匠たちがいる。古来より受け継がれてきた技や文化を、後世に残し伝えるという役割と責任を担いながら日々精進し続けている瀬戸内の伝統工芸士の仕事ぶりを拝見。伝統技術の保存と継承や、現代の暮らしへと融合させる工夫、そして、一貫して情熱を注ぎ続けるもの作りへの思いを伺った。
<取材・写真・文/鎌田 剛史>
備前焼(経済産業大臣指定伝統的工芸品)/木村 桃山さん
究極にシンプル。ありのままの表情に魅了される焼物。
岡山県備前市の伊部地区周辺で生産されている「備前焼」は、日本六古窯のひとつ。50~100年寝かせた良質の土で一点づつ成形し、乾燥後に長時間じっくりと焼く。釉薬を一切使わないため土の風合いがそのまま残り、自然の温かさを感じる素朴な焼物に仕上がる。焼き味の景色は窯への詰め方や、燃料となるアカマツの焚き方、炎の力加減などで変わり、窯変、胡麻、棧切り、緋襷といった多彩な表情を見せる。どの製品もひとつとしてほかに同じ柄のものは存在しない一点ものばかりだ。
備前焼の素晴らしさを世界中に広めたい。
「備前焼に茶道などの素晴らしい日本文化を融合させ、新たな表現方法を追求したい」と目を輝かせるのは創業500年を超える「備前焼六姓窯元 桃蹊堂」の26代当主・木村桃山さんだ。木村さんは大学卒業後に陶工の道へ。スペインの美術学校へ留学し西洋芸術の知識と技術を深め、以後は伝統技術に西洋のエッセンスを織り込んだ革新的な創作に注力している。
多彩な色や柄・形の備前焼がずらりと並ぶ「桃蹊堂」の店内。
店の奥に工房を構え、木村さんは弟子と一緒に作品づくりに日々励んでいる。
敷地内にある年季の入った巨大な登り窯では、岡山・広島県産アカマツを燃やして長時間焼き上げる。想像を超えた焼き味が現れた時がもっとも喜びを感じる瞬間だとか。
4年に一度香川県の離島を中心に開催され、国内外から多くの人々が訪れる人気芸術イベント「瀬戸内国際芸術祭」には1回目から出展。茶室に改造したリアカーで、備前焼の器で茶を振る舞う「犬島楽茶」は、毎回大勢の観光客に好評だ。
木村さんは英語・スペイン語が堪能で茶道にも精通。国内のみならず海外でも個展を開催し、他の芸術家とコラボしたアート作品を発信するなど、多彩な活動を展開中だ。物腰が柔らかく温厚な人柄だが備前焼にかける思いは熱い。「時代性に合う作品づくりはもちろんですが、長年の伝統は大切に守り抜きます。他窯の陶工たちとも切磋琢磨しながら、備前焼の素晴らしさを世界に広めていきたいですね」と未来へ思いを馳せていた。
備前焼 六姓窯元 桃蹊堂
岡山県備前市伊部1527
0869-64-2147
9:00~17:00 1/1~3休業
http://www.tokeido.com
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