木、草、土、石といった自然素材を高度な技術で加工した伝統工芸品は、はるか昔より日本人の生活や文化を支え続けてきた。人間の磨き抜かれた手から生み出される品々の繊細さと美しさは、日本が世界に誇れるもののひとつ。兵庫県にもさまざまな伝統工芸が今も残っており、先人たちが生み出し発展させてきた技法を一途に守りながら、研さんを重ね続ける匠たちがいる。古来より受け継がれてきた技や文化を、後世に残し伝えるという役割と責任を担いながら日々精進し続けている瀬戸内の伝統工芸士の仕事ぶりを拝見。伝統技術の保存と継承や、現代の暮らしへと融合させる工夫、そして、一貫して情熱を注ぎ続けるもの作りへの思いを伺った。
<取材・写真・文/鎌田 剛史>
播州そろばん(経済産業大臣指定伝統的工芸品)/宮永信秀さん
匠たちの繊細な技を結集した伝統の計算道具。
兵庫県小野市は日本一のそろばんの産地として有名だ。この地で作られる「播州そろばん」は、安土桃山時代に製造が始まって以来、長きにわたり人々の生活に欠かせない計算道具として愛用されてきた。しかし、電卓やパソコンなど自動計算技術の進歩により、その需要は減少。取り巻く環境は年々厳しさを増している。
そんな逆境下でも「そろばんには未来がある」と信じて前を向く人がいる。そろばん製造の老舗「ダイイチ」の宮永信秀さんだ。同社5代目社長で36歳。従来製品を現代向けにアレンジしたり、珠を使ったおしゃれな小物・アクセサリー開発、さらにはレバノンや台湾などへの海外販路開拓など、らつ腕をふるっている。
後継者不足が危ぶまれる中、「ダイイチ」には宮永社長(右端)を含め職人が5人在籍。
真剣なまなざしで出来上がったそろばんの仕上がりをチェックする宮永さん。
頼もしい存在と宮永さんが太鼓判を押す徳長佑亮さんは20代の若きホープだ。珠入れの見事な技を披露してくれた。
伝統の灯を絶やさぬために注力。将来は自社一貫製作を目指したい。
大きな課題は職人不足。「珠を削る専門、珠を染色して竹ひごを通す穴を開ける専門、珠を通す竹ひご製作の専門、組み立て専門といったように、そろばんづくりは昔から分業制。それぞれの職人技が結集して出来上がる。うちは組み立てのみで、他の工程は外部の職人にお願いしていますが、それぞれの職人がほとんど残っていない状況です」。播州そろばん存亡の危機を打破すべく、宮永さんは将来的に自社ですべての工程を一貫して行えるようにしたいと考えている。現在は珠の染色職人の下へ足しげく通い、その技術を習得中だ。「伝統の灯を絶やさないよう、常に新しいそろばんの姿を探っていきたい」と宮永さんは熱っぽく語っていた。
「ダイイチ」ではそろばんの普及・PRを図る施設「そろばんビレッジ」を運営。
「そろばんビレッジ」では自社製品の販売のほか、色鮮やかなそろばんの手作り体験教室も開催。子どもたちから人気を集めている。
そろばんビレッジ 株式会社 ダイイチ
兵庫県小野市垂井町644-5
☎ 0794-63-7089(不在の場合0794-62-6641)
11:00~17:00(平日は前日までに要予約)
そろばん製作体験¥1,800~
火曜日定休
http://daiichi-j.com/village-2
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