岡　山

　敷地隅のシマトネリコの大木は、元からここにあったもの。青々と茂る枝葉は屋根の高さをゆうに超え、中庭いっぱいに濃い木陰をつくる。背後には緑の山が控え、田んぼの向こうには気持ちの良さそうな土手の道。自分たちの思い描く暮らしに合う土地を求めて3年近くを費やしてきたIさまご夫婦にとって、この地はまさに、たどり着くべくしてたどり着いた場所だといえた。
　家は、北東2面から庭を囲むL字型。普段からよく友人たちを招く家ということで、東側に寝室などプライベートな空間をまとめ、北側のメインルームをパブリックなエリアとして開放する。通りから見た外観はガルバリウムの外壁とガレージで閉じられた印象だが、内に入れば豊かな中庭が展開するという、伸びやかさと落ち着きの両面を感じられる住まいだ。
　暮らすのは、会社勤めの傍らハンドクラフトや料理にいそしむご主人と、雑貨とお菓子の店を営む奥さま。以前から夫婦でたくさんのアンティーク家具を集めており、それらの存在感をおおらかに受け止める、伸び伸びとした吹き抜けのリビングがつくられた。圧巻は南のほぼ全面にわたる窓で、迫力ある樹木の姿を巨大な絵画のように切り取って見せる。また反対の北側にはゲストルームとしてロフト風の2階が設けられており、高い位置にある2面の窓が、空と山の景色を映し出す。
　ゲストが集えばご主人が手料理をふるまい、食事の後は淡いグレーの壁をスクリーンにして映画を見たり、グラスを片手に庭に出たり。もちろん夫婦ふたりと愛犬との水入らずの時間は何よりも心安く、好きなものに囲まれて暮らす楽しさに満ちている。