通りから深く奥に控え、木々の枝葉に紛れるように佇む黒い建物。低くなだらかな屋根面はそのまま背後の山へとつながり、深い緑に溶け込む。つつましく、それでいて抑え難い存在感をにじませる家だ。
白い石畳の先には、訪れる人をそっと導き入れるように暗がりの入り口が開く。くぐればそこには涼しい日陰があり、目の前には石積みの塀。塀越しにちらりと中庭の存在をうかがわせつつ、外からの視線を緩やかに遮る役割を持つ。この奥の中庭こそがTさま邸の軸であり、客人を招く和室からも普段の生活の場であるリビングからも、いつでも美しい庭を眺められるコの字型の設計となっている。
玄関から廊下を折れてすぐの位置に設けた和室は、親族たちが集うこの家にとって、とりわけ大切な空間。しかしあえて必要以上の広さにはせず質実な趣に仕上げ、そこから廊下を挟んで広がる中庭の風景を、何よりのもてなしとした。LDKは、ホワイトオークの床材と白壁で、すっきりとしたモダンな印象に。構造材を見せず白一色で覆った寄棟の天井面が、やわらかな陰影をつくっている。
日頃は多忙な生活を送り、自邸で過ごす時間はわずかだというTさま。だからこそ、この家には日常を切り離す深いくつろぎ感を求めた。Tさまからの要望はほぼそれだけで、庭も建物も内装も、基本的に全てつくり手の感性に委ねられたという。細部まで調和の図られた上質な空間に身を委ね、緑濃く潤う草木を眺めるつかの間のひとときに、身も心も深く癒やされていく。
建築実例データ | |
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私たちとお客さまの関係は一緒に家づくりをするためのチームです。お客さまの家に対する思い、ライフスタイル、夢などのお話の中から要望をくみ取り、幸せな暮らしをご提案します。設計から家具の提案までとことんお手伝いいたしますので、どんなことでもご相談ください。
取締役 押田 怜司