薪を燃やして暖を取る、煙突の付いた暖房器具「薪ストーブ」。ストーブ本体の輻射熱(ふくしゃねつ)や、本体周りの暖かい空気の対流により室内を暖める仕組みで、日本全国はもちろん、この瀬戸内でも近年じわじわと人気が高まっている。広島県尾道市で薪ストーブのあるこだわりの住まいをかなえたNさんの別邸を訪問し、瀬戸内の自然と風景を巧みに採り込んだ住空間での楽しみ方や、薪ストーブの魅力について聞いた。
真空管アンプを通してスピーカーから流れてくるジャズの豊潤な音色に酔いしれる。眼前に尾道水道を望む絶景ロケーションは、時間を忘れてずっと眺めていたくなる。まるで海沿いの洒落たカフェにでもいるような心地よい気分に浸れるこの空間は、Nさんが週末を過ごすための別宅だ。仕事に忙殺されっぱなしの日常から束の間のエスケープ。一人だけの時間をとことん満喫するために建てたという、まさに大人の男ならば誰もが憧れるこだわりの「隠れ家」である。
広島県尾道市。国道沿いの敷地とは思えないほど室内は静寂に包まれている。時折目の前を通り過ぎる漁船の音が聞こえてくるくらいだ。国道や海からの視線を遮り、プライバシーを確保するため、設計を依頼した建築家とは何度も入念な打ち合わせを重ねたという。特にリビングからの眺望には細心の注意を払ったといい、西端でカーブしている尾道水道の先へ視線を導き、海が向こうまで続いているように見える設計の工夫が施されている。「ソファに身をうずめ、ワインを片手にぼうっと海を眺めるのが至福のひと時」とNさん。ここは西端で行われる夏の花火大会の特等席にもなるといい、毎年気の置けない仲間を招き、人混みを気にせずゆったりと花火見物としゃれ込むのが恒例行事になっているそうだ。
シックな雰囲気でコーディネートされた室内には、マニアには羨望の「タンノイ」の限定スピーカーをはじめとするオーディオの名機たちや、ワインセラー、本革張りの大型ソファ、アーティスティックなインテリアなど、本物を知り尽したNさんの審美眼にかなったアイテムの数々がセンス良く置かれている。その中でもひときわ目を引くのが、入口の脇に鎮座する薪ストーブだ。シンプルでスタイリッシュなデザインは、ラグジュアリーな部屋の雰囲気にマッチしている。冬にはNさん自身で火を入れ、薪の炎をじっと見つめるのが楽しみでもあるのだとか。「ずっと薪ストーブのある部屋に憧れていたんです。エアコンを入れずとも家じゅうポカポカ暖かいし、揺らめく火を見ていると心が安らぎ、ホッとします」。
薪ストーブを選ぶに当たり相談を持ち掛けたのが、福山市の薪ストーブ専門店「小畠」。ショールームへ自ら足を運び、同社の小畠悦男社長に相談。住まいのデザインやコーディネート、Nさんの趣向などからチョイスしたのは、デンマークのメーカー・スキャン社製のCI10GL。高効率燃焼システム「クリーンバーン」を搭載したモデルだ(現在は廃盤)。
「薪ストーブのあるこの家で過ごすひと時は、五感をフルに使って楽しんでいる感じがします。窓の外の美しい景色や海を行き交う船のエンジン音、薪の燃える匂い、美味しい料理とワイン…。それらから得られるエネルギーが明日への活力になるのはもちろん、やがて真の心の豊かさにもつながっていくと思うんですよね」とNさんは白い歯をこぼしていた。
薪ストーブ専門店「小畠」についてのリポート記事はこちら
豊かな自然と共生する瀬戸内暮らしをかなえたい人は
ぜひ「SETOUCHI MINKA LIVING with NATURE 瀬戸内の自然と暮らす。」をチェック!