福山市神辺町は、広島と岡山の県境に位置する穏やかな町。海山に囲まれた自然豊かな土地柄とはいえ、かつて旧福山城の城下町としてにぎわい、その後も周辺都市のベッドタウンとして栄えてきたこの地では、山の開拓が進み郷愁を誘う深山風情は今やほとんど残されていない。にもかかわらず、その町の一角に構えられたFさんの新居には、まるで緑深い山に寄り添われているかのような心地よい森林の気配がそこはかとなく漂う。
その鍵は、東西南北に正対する建家を囲う南北の“森庭”にあった。ソヨゴやハナミズキ、ツツジ、モミジなど多種多様な木々に彩られた庭は、単なる景観のためだけのものではない。常緑樹と落葉樹が巧みに組み合わせられた植栽は、夏は豊かに茂って日射を遮り、一部は秋に落葉して冬の日差しをおおらかに取り込む。南の上昇気流は北庭の冷気を引き込んで室内の熱気をさらい、夕凪の刻もすがすがしい風を楽しむことができる。おまけに建築端材に山採りの枝葉を混在させた土壌では木々が互いに相関し合う森林環境が保たれるので、無秩序な繫茂に手を煩わされることもない。
普段は3世代5人が暮らすこの家には、盆・暮れ・正月ともなると20人近い親類が集う。北庭のテラスルームとして独立的に使われることも多い玄関土間も、そのときが来ればLDKや南北の庭と一体化して大家族のだんらんを悠々と包み込むのだろう。あるときは一枚の絵画のように目を楽しませ、あるときは生活空間に入り込む。単なる嗜好的空間にとどまらない暮らしに息づく“森庭”が、整然と整えられたこの住宅街の一角に今なお深山の息吹を伝えている。
建築実例データ | |
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一般的に、庭づくりは家が完成した後。実際に住まれた感想を直接聞き、「住環境」の提案に生かせるのが一番の強みです。また、庭屋だからこそ、「環境」を踏まえた上での「住まい」づくりを大切にしています。特にお子さまにとって一番大事なものは磨かれる感性。幼少期から季節を肌で感じられる環境の中で過ごすことで、それは「原風景」となり、多くの感性を磨くことができます。
代表取締役 森田 健吾