岡　山

時を超え次代へ価値をつなぐ家。

元々は大正元年、高祖父の代に納屋として建てられたもの。隣はSさまの生まれ育った実家で、子どもの頃の記憶では、納屋は牛舎付きの住居に改装され、祖父母が牛を飼いながら住んでいたそうだ。敷地は山の斜面に沿って高低差があり、南半分は見事な職人技で積まれた石垣の上に建物が据わる。屋根裏には、ひと抱えもある太い地松の太鼓梁が幾本も。「押田建設」スタッフとして数々の住宅建築に携わってきたSさまにとって、自邸を建てるなら、100年の歴史の刻まれたこの躯体を、無二の魅力として生かさない手はなかった。プランの軸となったのは、空港の滑走路を見下ろす南側の眺望。これをFIXガラスで大きく切り取り、軽く腰掛けられる高さの出窓にして、風景に寄り添う窓辺の居場所をつくった。また敷地の南東角には大きな桜の木があり、ちょうどこの枝ぶりが見える位置にも窓を配置。東側は高く吹き抜けて開放感のあるダイニングに、西側は低く天井を張り、落ち着いたリビングをあつらえた。堂々たる梁組みを残しながらも、いわゆる古民家的な趣をどこまで見せるかについては、最後まで注意深く検討したという。最終的に、1階の壁表面に出る構造材は全て白く塗って壁と同化。吹き抜け上の梁の存在感を際立たせながらも、空間全体はすっきりと洗練された印象に仕上がった。自邸の設計ということでいろいろと試みた部分もあるというが「目指すイメージはほぼつくれたと思います」とSさま。「代々受け継がれてきたものに新しい価値を加え、子どもたちにつなげていけることがうれしいですね」と笑みをこぼした。