古来より日本では木で家をつくり、そこに暮らしてきた。現在においても一般住宅のほとんどが木造建築であるが、では自分の家に使われている木は、どこから来たものか知っているだろうか?
日本は国土の3分の2を森林が占めており、このうち約4割が人の手で植え育てられた人工林だ。こうした広大な山の木々が今、まさに「伐りどき」を迎えているという。
にもかかわらず、現在の住宅に使われる木材は、大半が外国産。山を管理する人手も経営体力も不足する中、なんとか補助金で賄いながら伐り出される国産材に対し、外国で大規模に生産される木は安価で、品質のそろった製品となって大量にやってくる。すぐそこに豊かに生えている木よりも、遠く海外から運んでくる木のほうが、安く手軽であるという矛盾が起こっているのだ。
住む人だけでなく、家の作り手である設計士や大工でさえも、今扱っている木がどこの山でどうやって育ってきたものか、分かっている人は少ないのが現状だろう。
ここでは、こうした状況に問題意識を持ち地元の山に向き合う、兵庫県の工務店を紹介したい。
「近くにこんなに山があって、こんなにたくさんの木があるのに、なんで誰も使わないんでしょうね」。こう話すのは、兵庫県・多可町にある「太田工務店」の代表・太田亨さん。
多可町は昔からヒノキの植林が盛んな地域で、かつては全国にも多く出荷していたが、時代とともに市場は衰退。町内の製材業者も次々と廃業してしまった。太田さんはこの状況を少しでも食い止めたいと、地元産「多可桧」を使った家づくりに力を注いでいる。
近年は地産地消を志向する工務店も各地で増えてはいるが、同社の取り組みの特徴は、単に使うことから一歩踏み込み、自ら製材に乗り出したことにある。「製材所が、製材だけでは経営が成り立たなくなり、住宅建築に参入する例はけっこうあります。でもその逆はめったにない」と太田さん。「作り手はみんな柱や板のことは分かっても、山の木のことは分からない、扱えないと思っているんですね。私はそこに疑問を感じているんです」。
製材の経験はまったくなかった太田さんだが、中古の製材機を購入して使い方を覚え、低温乾燥庫も自力で建設。地元森林組合から良質なヒノキ丸太を安定的に買い付け、自社で製材して自社の住宅建築に用いている。「丸太で仕入れるのでコストが抑えられ、一般的な住宅と変わらない価格で、オール地元産ヒノキの家が建てられるんですよ。製材は機械1台あれば始められますし、自分で製材することでより良い木の活かし方もわかるようになりますから、自社で地元の丸太を買う工務店さんがもっと増えてほしいと思います」と、熱を込めて語る。
最近では町の行政も太田さんの熱意に感化されるように、多可町産桧のアピールに力を入れる。「これからも愛する地元のために、多可町産桧の魅力を伝えていきたいですね」と意欲を見せていた。
経験、知識、そして何より家づくりに誇りを持った伝統工法の匠が手間を惜しむことなく、手の仕事に精を出す。伝統工法を知っている大工だからこそできる「木を知り、木を見、木の特性を生かす」ということ。施主と共に感動し、共に喜び合える家づくりを提案している。
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住所/兵庫県多可郡多可町加美区鳥羽226 営業時間/8:00~18:00
定休日/不定休 ☎ 0795-20-5434 https://otakoumuten.com