「平屋」に憧れはあるものの、実際に住むとどうなのだろう。住宅の新築は一生に一度の大イベント。手探りの中で行った自分の決断が、その後の生活に大きく影響することは明らか。建ててから「こんなはずじゃなかった…」なんて後悔は、なるべくならしたくない。そんな平屋新築を検討中の方へ。「瀬戸内民家、平屋」編集部が「平屋」を建てるメリットやデメリットとは一体どんなものなのかを、工務店や建築家など家づくりのプロの意見を伺いながらまとめてみた。建築家ならではの見解も非常に興味深い。それぞれのライフスタイルに合った理想のマイホーム実現のためにも、家づくりのプロの意見をぜひ参考にしてほしい。
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部屋が上下に分かれていない平屋では、個室にいても何となくお互いの気配を感じやすく、家族のコミュニケーションが取りやすい。階段で隔てられていないので、自然とリビングなどに集まって来やすく、家族の団らんを楽しむことを大切にする暮らしにぴったりの住まいの形といえる。
平屋は2階との関係で場所をとる階段がないので、その分設計の自由度が増す。そのため、各室のつながりが良くなり、家事動線が短く機能的な平面プランがつくりやすくなる。脱衣室から洗濯、物干し、乾いた衣類のクローゼットへの収納までの一連の流れがスムーズになったり、物を持って上下に移動する労力が必要ないので掃除や荷物の運搬が楽になったりする。また、最近使う人が増えているロボット掃除機の使用にも適している。忙しい現代人にとってありがたい家事労働の軽減が期待できる住まいといえる。
平屋は2階がない分、天井高さを2.4~3mぐらいの高さにして開放感をアップすることができる。その空間を利用して、天井に高低差をつけたり、床に小上がりなどを設けたりすると変化のある室内を演出できる。また、天井を張らなければ屋根裏まで視線が抜け、ダイナミックに梁が見える大きな空間をつくることも可能。そして、大きな小屋裏にロフトを設ければ、不足しがちな収納量を増やすことができるのでお勧めだ。
平屋は2~3階建てなどの住宅に比べて地震に強く、建物の高さも低いので台風時の風圧による揺れも少ない。建築基準法の約1.5倍の強さがある耐震等級3を取得するために必要な耐力壁も少なくてすむ。平屋は上部の荷重が屋根だけなので構造への負担が少なく、LDKなどの部屋を広く取りやすい。大きな開口の窓も設けやすく、明るく風通しの良い住まいを実現しやすい。
平屋での暮らしは、子どもの階段転落によるケガの心配がないので子育て中の家庭にとって安心だ。また、階段での上下の移動がないので将来足腰が弱っても安心して暮らすことができる。高さの低い平屋は屋根の点検や樋の清掃がしやすく、外壁塗装が足場を設けなくても行える。そして、すべての部屋が地面に近いので災害や火災などの非常時に屋外へ素早く脱出しやすいという利点もある。
平屋は隣家への日当たりや通風を妨げることがなく、周辺環境に優しく溶け込んだ佇まいになる。居間や和室の外に縁側や広いウッドデッキを設ければ、室内の延長のように感じる半戸外の空間となるので、外と内のつながりが深まり、庭の自然をより身近に楽しむ暮らしができる。平屋は階段がないので、段差が苦手な犬を飼うのにも適している。簡単に外に出て行けるので、庭に走り回る場所を設けて運動させればストレスも溜まりにくく、人も犬も健康的に暮らせる。
平屋はある程度の広い敷地が必要になるので狭小地では建築が難しくなる。日当たりや通風などの周辺環境も考慮しながら入念に土地を探さなければならない。
平屋は総二階建てに比べ、基礎と屋根の面積が多くなるので工事費が高くなる。
平屋だと、二階建てに比べると基礎が広くなるので、その分屋根も大きくなる。屋根が大きくなるということは、夏の直射日光を受けて熱くなる面積が増えることになる。しっかりと天井や屋根面を断熱しておかないと暑い家になリやすい。
平屋といえば、大きな窓を備え、ウチとソトとの繋がりのある空間づくりを叶えることができるのも大きな魅力。ただ大きな窓を設置する場合は道路や近隣からのプライバシーの確保もしっかり考える必要がある。1 階に備える窓の数が多いと、その分侵入される可能性のある場所も増える。防犯対策をしっかり考えることが肝心になる。
河川のはんらんや土砂災害などが発生した際に、平屋だと2 階へ避難することができない。土地を購入する前には、その地域のハザードマップを確認することが大切だ。
【監修/小松 秀行(有限会社 小松秀行建築工房)】
【メリット】 平屋の住まいは、田の字プランで、開放的で通風や採光は存分に取り込んで、涼しく、暖かく、五感で感じられ、居心地の良い住まいです。
【メリット】平屋の住まいはヒューマンスケールであり、屋根によって包まれる安心感があります。また、人を優しく迎え入れる構えをしています。室内は屋根のかたちに合わせて天井を高く取ることができ、大らかな空間が生まれます。これは平屋の大きなメリットです。さらに、平屋は2階建てに比べ、バリアフリーはもとより、制約が少なく自由なプランが可能となります。どの部屋からも庭を身近に見ることができます。階段などの動線が少ない分、床面積を抑えることもメリットになります。
【デメリット】平屋を計画するときに難しいのは、少し大きな住宅になると動線が長くなることです。しかし、移動するときの風景に魅力的なものがあれば、シークエンスは豊かになります
【メリット】年間を通して過ごしやすいこの地域の民家の特徴の一つは、外部と内部の境界をあいまいにし、自然環境と一体化したような形にあると考えています。季節や時間帯に合わせてより快適な環境になるように、自分自身で調節ができる住まいです。温度調節を機械だけに頼るのではなく、豊かな自然を享受しながら快適に過ごせるように自分で家を操作することです。多少の我慢も操作のうちの一つですが。平屋の、そして単純な形の住まいは、そのような操作がやりやすいと思います。東西方向を長くした単純な長方形で南面を大きく開放し、内部は1 つの大きな空間の中に必要に応じて仕切り方を工夫し、必要な部屋を点在させます。どこにいても室内の雰囲気が感じられ、そして空間的な広がりも大きくなります。
瀬戸内の歴史と文化、地元工務店が手がけたこだわりの平屋など、読んで楽しく、ためになるコンテンツ満載!