兵　庫

住まう人と一心同体の家。

兵庫の名山として名高い「千ヶ峰」をはじめとする山々に囲まれ、のどかな雰囲気に包まれた多可町にSさま夫婦が越してきたのは2年前のことだ。「ベルギー生まれの主人と東インドで暮らしていたんですが、私の故郷である日本に帰国することになったんです。その時たまたま見かけた雑誌に古い武家屋敷を改修した素敵な古民家が紹介されていて、日本の住文化って美しいとあらためて気付かされたんです。次に住むのは絶対に古民家が良いなと思って」と奥さまはほほ笑む。ご主人もかつて日本で暮らしたことがあり、日本の古民家に長年憧れを抱いていたといい、二人で情報を探しては、売りに出されている全国の古民家を見て回ったそうだ。そして、ついに巡り合ったのが築200年近いこの家だった。「それまで見て来た家の中で一番ボロボロでした（笑）。ですが、その佇まいや雰囲気から、何か運命的なものを感じたんですよね。自然豊かな周辺環境や、細やかで優しい地域独特の文化も気に入ったので、購入を決めました」。屋根の一部が崩落し、床材や柱の腐敗などが進んでいたため、古民家再生に定評のある町内の「太田工務店」にリノベーションを依頼。「先に改修した離れで暮らしながら母屋の工事をずっと見守っていたんですが、職人たちの技が本当に素晴らしくて。主人も真剣な表情で見つめながら、その見事な仕事ぶりに舌を巻いていましたね」と奥さまは目を輝かせる。ご主人もほほ笑みながらゆっくりうなずいていた。伝統と現代の技術が融合した住まいが完成し、ご夫婦は念願の古民家ライフを満喫する毎日だ。奥さまは黒ずんだ梁や柱を愛おしそうに見つめながら、この家を「私たちの肌の一部のような存在」と呼んだ。