木、草、土、石といった自然素材を高度な技術で加工した伝統工芸品は、はるか昔より日本人の生活や文化を支え続けてきた。人間の磨き抜かれた手から生み出される品々の繊細さと美しさは、日本が世界に誇れるもののひとつ。愛媛県にもさまざまな伝統工芸が今も残っており、先人たちが生み出し発展させてきた技法を一途に守りながら、研さんを重ね続ける匠たちがいる。古来より受け継がれてきた技や文化を、後世に残し伝えるという役割と責任を担いながら日々精進し続けている瀬戸内の伝統工芸士の仕事ぶりを拝見。伝統技術の保存と継承や、現代の暮らしへと融合させる工夫、そして、一貫して情熱を注ぎ続けるもの作りへの思いを伺った。
<取材・写真・文/鎌田 剛史>
砥部焼(経済産業大臣指定伝統的工芸品)/大東 アリンさん
暮らしにハッピーをもたらす素朴で秀美な焼物。
愛媛県砥部町一帯で作られている「砥部焼」は、つるっとした肉厚の白磁に、藍色でさまざまな柄が絵付けされた陶磁器。オフホワイトとネイビーブルーのコントラストが美しく、配色がシンプルなので、和洋中どんな料理の器としても合う。厚手のため硬くて丈夫なのも魅力だ。「唐草紋」や「なずな紋」の定番柄が描かれた作品のほか、最近では花や動物といった愛らしいイラスト入りのものも多彩にそろっており、女性や若者からも高い人気を集めている。
町内には何代も続く老舗から新進気鋭の若手の店まで100軒以上の窯元が存在している。フィリピン出身の陶芸家・大東アリンさんが営む「東窯」の作品は、独自で編み出した「和紙染め」という手法を用いたもの。水彩画のような淡いパステル調の絵付けが可愛いと評判を集め、全国各地から客が訪れる人気の窯元だ。
店のバルコニーからの絶景ロケーションは格別。店内は居るだけで心がワクワクする。壁紙の鮮やかな絵はアリンさんが自ら描いたもの。当初は異色の陶芸家として扱われたというが、今では現代砥部焼のパイオニア的存在としてファンも多い。
現代風に愛らしくアップデートさせながら、砥部焼を未来へつなぎたい。
「30年前に私が作りはじめたころは『こんなの砥部焼じゃない』って酷評されたことも。でも、こんなカラフルでキュートな砥部焼もあっていいじゃない。眺めても使っても楽しいし、何よりハッピーな気分になるでしょ?」とアリンさんは目を細める。白磁に藍色の伝統的なものも、アリンさんが作る現代的なものも、どちらも砥部焼として共存繁栄させ、砥部焼を未来へとつなぎ、残していきたいと目を輝かせる。「砥部焼をもっともっと可愛くハッピーなものにアップデートさせていきます!」と、アリンさんは屈託なく笑った。
「使う人がいつもハッピーでいられるもの」をテーマに、毎日ひとりで創作作業に打ち込んでいる。
アリンさんは絵柄のアイデアが思いつくとすぐにスケッチに書き留めておくそう。絵のモチーフとなるのは花や木など日常の風景にあるものが多いのだとか。
砥部焼 東窯
愛媛県伊予郡砥部町五本松885-21
☎089-962-7156
10:30~18:30
火曜日定休
http://alyne.jp
愛媛の伝統的特産品28品目はこちらでチェック!
瀬戸内エリアの住まい、カルチャーに関する記事が満載!