香川県最古の酒蔵【西野金陵】訪問記。

豊かな自然に恵まれた瀬戸内地域は、日本酒造りに必要な米、水、気候の条件がそろっている貴重な地域でもある。こうした良質な環境の下、瀬戸内沿岸の各県には、江戸時代から現代まで脈々と受け継がれている高度な技術で、美味い酒を醸し続ける酒蔵が多く存在。各蔵では、長年培った歴史と伝統を大切に守りつつ、現代の最新技術も取り入れながら、国内外の”酒呑童子”たちに愛される酒造りに精進し続けている。そんな数ある瀬戸内の酒蔵の中から、香川県では最も古い酒造会社である「西野金陵株式会社」を訪問。その製造現場を拝見しながら、酒造りに対する思いなどを伺った。

＜取材・文／鎌田剛史＞

日本酒のレッテルを払拭する、新しい酒造りにまい進。
一人でも多くの人に「酒との楽しいひと時」を提供したい。
代表銘柄　金陵

日本酒のレッテルを払拭する、新しい酒造りにまい進。

「うどんに合う酒を作りたいんですけどね。これが難しい」と、「西野金陵」の多度津工場で製造課長を務める酒井史朗さんは開口一番にこう言った。「蕎麦は注文してから出てくるまで、日本酒を楽しみながら待つのが粋とされていますよね。でも、うどんは頼めばすぐに出来上がるから、酒をちびりとやりながら待つ時間がない。何とかならんですかね」とユーモアたっぷりに話す。

讃岐の米と水で造った酒だからこそ、讃岐人の口にすんなり馴染んで美味い。そして讃岐の料理とも相性が良い。酒井さんはそう考えながら、新しい讃岐の酒を生み出すべく、工場のメンバーとともに試行錯誤しているそうだ。「讃岐料理のもう1つの代表格・骨付き鳥にぴったりの酒は、完成まであともう少し」と自信を見せる。

寛政元年に琴平町で創業して以来、地元の米と水にこだわった酒造りを続けている「西野金陵」。香川県ではもっとも古く、清酒「金陵」を中心とした多彩な製品を生み出している。1969年からは多度津工場で製造しており、約2.8haもの広大な敷地に構える「多度津蔵」と「八幡蔵」で酒を醸し出している。

一人でも多くの人に「酒との楽しいひと時」を提供したい。

創業から230年以上にわたり、伝統の技と味を一貫して守り続ける同社だが、その一方では常に斬新で時代に合った新製品開発に余念がない。若者の日本酒離れが叫ばれる昨今だが、悪酔いする、ベタベタする、酒席でのいい思い出がないなど、悪いイメージが浸透しているのも要因のひとつではないかと酒井さんは言う。「これを何とか払拭する新しい酒を生み出したいですね。さらにコロナの影響も重なって厳しい状況ですが、今のうちに製品開発や設備投資に力を入れ、やがて来るブレイクスルーの瞬間に備えてひたすら知恵と力を養っているところです」。CMでおなじみの「金陵」のキャッチコピー「お酒で話しましょ」。そんな酒との楽しいひと時を、一人でも多くの人に提供したいと、酒井さんはひときわ目を細めた。

「金刀比羅宮」の参道沿いにある「金陵の郷」。製造拠点を本格的に多度津工場に移すまではここで酒造りを行っていた。当時の酒蔵庫を改装し、昔の酒造道具や酒造りの様子を展示・再現した歴史館のほか、酒や同社の歩みなどを紹介する文化館、ここでしか手に入らない酒も並ぶ販売コーナーなどがあり、無料で立ち寄れる。試飲ができる直売コーナーも人気だ。また、製品開発の研究・試作を行う「琴平蔵」もある。