瀬戸内が舞台の小説の中には映画化されたものが多数あり、瀬戸内各県で撮影ロケを行った作品も多い。スクリーンの中に登場する瀬戸内ならではの美しいスポットへ実際に足を運び、作品の世界観に浸ってみよう。広島県内で撮影された小説映画のロケ地を紹介。
<取材・写真・文/鎌田 剛史>
『望郷』のロケ地 ~広島県尾道市因島~
故郷の思い出を呼び起こす、島の懐かしい風景に会いに行く。
尾道市出身の小説家・湊かなえさんの短編小説集『望郷』に収められた「夢の国」「光の航路」の2編が2017年に『望郷』として映画化。架空の島「白綱島」で暮らす主婦・夢都子と、島に戻ってきた中学校教師・航を軸に、親子2組の過去と未来が描かれるこの作品では、貫地谷しほりさん、大東駿介さんらがキャストを務めた。重いテーマの物語ながらも爽やかな印象を与えているのが、登場人物たちの背景に流れる懐かしい島の空気感。のんびりと時が流れる島を巡れば、生まれ育った故郷の記憶や思い出が浮かび上がってくる。
作品の舞台となった因島は、架空の島「白綱島」として登場する。
映画の冒頭で航がフェリーから降り立ったのが「重井西港」。
見つければ願いがかなうという十字架の刻まれた石像を夢都子と航が探すシーンは「白滝山」で撮影。
標高226mの山頂は、大小約700体の石像がずらりと並ぶ「五百羅漢」で有名なスポット。展望台からは360度の絶景が一望できる。
ノスタルジックな雰囲気が漂う「土生商店街」は2つの物語それぞれに登場。夢都子と母が福引でドリームランドのチケットを引き当てたシーンはこの地点。
航の通学シーンなどが撮影された場所。
夢都子が自転車で疾走するシーンや、泣きながら母とケンカをするシーンは「土生港」の周辺で撮られた。
航の父や教え子が入院していたのが「因島総合病院」。
映画『望郷』
監督:菊地 健雄/公開:2017年/エイベックス・デジタル/112分
原作『望郷』
都会から離れた島に生まれ、育った人々。島を憎み、愛し、島を離れ、でも心は島に引きずられたまま…。閉ざされた「世界」を舞台に、島に生まれ育った者たちの複雑な心模様を鮮やかに描く。日本推理作家協会賞短編部門受賞作「海の星」ほか傑作全6編を収録。
湊 かなえ 著 文春文庫/文藝春秋
ロケ地となった因島の情報などは「いんのしま観光なび」でチェック!
『ヒナゴン』のロケ地 ~広島県庄原市~
かつて怪物フィーバーに沸いた田舎町を、童心に返って探検する。
1970年代、広島県比婆郡西城町(現在は庄原市西城町)を中心に目撃情報が相次いだ謎の類人猿「ヒバゴン」。この怪物騒動をモチーフに描かれた小説『いとしのヒナゴン』は2005年に映画化され、そのロケが西城町で行われた。撮影地には豊かな自然が残る場所や、昭和風情が漂うレトロな校舎・駅などが選ばれ、各所にはロケの記念碑が立てられている。ゆったりとした時間が流れる山間の町を歩けば、野山を無邪気に駆け回った幼少時代の記憶がフラッシュバックし、ノスタルジックな気分にも浸れる。
庄原市西城町に入ると伝説の怪物「ヒバゴン」の看板がお出迎え。
町内のロケ地には撮影記念碑が立てられている。
信子が比奈町に帰ってきたシーンなどが撮影された「JR備後西城駅」。
JR芸備線の鉄橋が架かる町並みも信子たちが自転車で駆け抜けるシーンなどに登場。
西城川沿いに民家が建ち並ぶのどかなロケーション。町に戻ってきた信子が旧友と語らうシーンが撮られた場所。
イッちゃんの選挙事務所となった建物。庄原市役所西城支所の前にあり、現在は使われていない様子。
比婆山のふもとにひっそりと佇む「熊野神社」。巨大な老杉が立ち並ぶ参道は神秘的。
「熊野神社」の南西にある「熊野の大トチ」は作中に何度も登場。清らかな大羽川の岸にそびえ立つ根周り約12m、高さ約30mの大木。
映画『ヒナゴン』
監督:渡邊 孝好/公開:2005年/ビデオプランニング/121分
原作『いとしのヒナゴン』
隣町との合併問題に揺れる広島県の田舎町・比奈町が舞台。30年前に目撃されたという謎の未確認生物「ヒナゴン」の存在を信じ続ける元ヤンキーの町長「イッちゃん」が、幼馴染の悪友や、憧れのヒロイン「信子」たちを巻き込み、ささやかな奇跡を起こす痛快ドタバタコメディ。
重松 清 著 文藝春秋
ロケ地情報などは映画「ヒナゴン特設ページ」でチェック!
瀬戸内の文学にスポットを当てた読み応え十分の特集記事は本誌でぜひチェックを。
「SETOUCHI MINKA」の取材風景や、本誌未掲載写真などはInstagramでも更新中!