歴史を重ねた古い町並みや、都心部から離れた地域の古民家などをホテルの客室に改修し、地元住民も一緒になって旅人を温かくもてなす「マイクロツーリズム」。その地域ならではの住・食文化に触れられるのはもちろん、地元の人たちとの交流を深めてもらうことで、地域の魅力を再発見できる新しい旅のあり方としてじわじわと人気を集めている。今回は「マイクロツーリズム」の旅の行き先として、「町をまるごとホテルにする」という発想から地域活性化に力を入れている岡山県矢掛町を紹介する。
＜取材・文／鎌田 剛史＞
目次
江戸時代の宿場町の面影が残る町。
旧山陽道五十一次の中で18番目の宿場町として栄えた岡山県矢掛町。JR矢掛駅から徒歩約8分でたどり着くかつての宿場町エリアには、今も白壁の古い町並みが残り、古き良き江戸時代の情緒と風情が漂っている。清流・小田川がもたらす豊かな自然と、先人から脈々と受け継がれる歴史と文化に育まれたこの町は、町全体をまるごと宿に見立て、そこに暮らすように滞在するという考え方「アルベルゴ・ディフーゾ」の国内先進地だ。
日本初のアルベルゴ・ディフーゾ・タウン。
イタリア語で「分散したホテル」という意味の「アルベルゴ・ディフーゾ」。町の中に点在する空き家を宿として活用し、町をまるごと活性化しようというもので、イタリアで地方再生に尽力するジャンカルロ・ダッラーラ氏が提唱した地域振興策だ。町本来の景観を維持しつつ、地域住民も一体となって旅人をもてなし、その地を訪れた人々に地域の歴史や文化を身近に体感してもらいながら、暮らすように滞在する特別な時間を提供するというこの取り組みは、2006年に同氏を会長とするアルベルゴ・ディフーゾ協会が設立して以来、イタリア国内で100以上、EU内で約150の施設が認定を受けるなど、地域活性化の起爆剤として広がりを見せている。
この日本では、2018年に岡山県矢掛町の宿泊施設「矢掛屋」がアジア初のアルベルゴ・ディフーゾに認定された。それと同時に矢掛町もアルベルゴ・ディフーゾ・タウンとしての認定を受け、旧山陽道の宿場町として栄えた歴史と文化の薫る町に泊まる魅力を大々的にアピールしながら、観光を核とした地域発展に力を入れている。
点在するスポットを回遊しながら、町の暮らしを体感しよう。
矢掛町内を東西に流れる高梁川の支流・小田川と並行するように、古き良き歴史的町並みが約750mにわたって続いている。江戸時代に旧山陽道の宿場町として繁栄を極めたこの地域は、2020年に国の重要伝統的建造物群保存地区にも選定され、観光スポットとして近年人気を集めている。現在も江戸時代の地割がほぼ残っており、間口が狭く奥行が深い「うなぎの寝床」と呼ばれる白壁の日本家屋が軒を連ねる光景は美しく趣深い。豪壮な佇まいを見せる大屋敷「旧矢掛本陣石井家住宅」や、「やかげ郷土美術館」といった歴史スポットにも立ち寄りながら、ゆっくりと町並み散策を満喫したい。
古民家を再生した「矢掛屋 INN AND SUITES」の周辺には、土産物などをそろえたショップギャラリーや温泉、食事処をはじめ、空き家の古民家を改修したカフェや雑貨店などが徒歩で行ける距離に点在しており、浴衣姿のままで食事や入浴、買い物へと気軽に出掛けられる。風情ある町並み歩きを楽しみながら、非日常のひと時を体感できることが、この町に泊まる大きな魅力だ。
◎滞在宿 矢掛屋 INN & SUITES
矢掛町の伝統ある古民家を再生した宿「矢掛屋 INN & SUITES」。宿泊棟は「本館」をはじめ、「温浴別館」「備中屋長衛門」「蔵INN KURABI」「蔵INN KAMON」の5棟全28室。
写真提供／矢掛屋 INN & SUITES
矢掛屋 INN & SUITES
岡山県小田郡矢掛町矢掛3050-1 ☎ 0866-82-0111 http://www.yakage-ya.co.jp
●IN/15:00～ ●OUT/11:00 ● 室数/本館6室、温浴別館8室、備中屋長衛門、蔵INN7室、蔵INN家紋6室の全28室 ● 駐車場/有 ● 各宿泊棟の宿泊料金・プランなどはHPで確認を。
◎温泉 湯の華温泉
写真提供／矢掛屋 INN & SUITES
「矢掛屋」の温浴別館にある炭酸カルシウム温泉で、同館の宿泊客は無料で利用できる。季節に合わせて、矢掛町の特産品である和ハッカやゆずの爽やかな香りを感じながらリラックスした時間を過ごせる。開放的な露天風呂のほか、地元の「矢掛石」を使った岩盤浴もあり、ゆっくりと旅の疲れを癒やせる。日帰り入浴も可能。
湯の華温泉
岡山県小田郡矢掛町矢掛2636 ☎ 0866-82-0111 （矢掛屋 INN＆SUITES） http://www.yakage-ya.com/contents/onsen
●火～日曜日/11:00～23:00（最終入場22:00）、月曜日/15:00～23:00（最終入場22:00） ※6:00～9:00は矢掛屋宿泊者のみ入浴可能 ●日帰り・平日/大人500円、小学生350円、幼児300円、休前日・休日/大人700円、小学生500円、幼児400円、岩盤浴料金/全日共通大人500円、小学生350円、幼児300円 ● 年中無休 ● 駐車場/有
◎食事 お食事処 寿司会席ゆらり
写真提供／矢掛屋 INN & SUITES
築120年を超える日本家屋をリノベーションした店内は、古き良き古民家の趣がそのまま残る上質な空間。四季折々に異なる表情を見せる庭を愛でながら、リラックスしたひと時を過ごせる。寿司をメインとした絶品料理を堪能できる。同館2階は1日1組限定の宿泊施設「旅籠屋 備中屋長衛門」で、食事と宿泊がセットになったプランもある。
お食事処 寿司会席ゆらり
岡山県小田郡矢掛町矢掛2562-1 ☎ 0866-84-0333 http://www.yakage-ya.com/contents/cyouemon
●ランチ/11:00～14:00（L.O.13:30）、ディナー/18:00～20:30（L.O.20:00、完全予約制） ● 定休日 / 火曜日 ● 駐車場/有
◎複合観光施設 矢掛豊穣 あかつきの蔵
写真提供／矢掛屋 INN & SUITES
築約100年の元木材加工所を改修した観光交流拠点。備中地域の特産品や伝統工芸品、雑貨などの販売コーナーや、伝統工芸品・木樽の製作体験工房「福来樽（ふくきたる）」、地元食材を使ったフレンチ・イタリアンを堪能できる完全予約制のバンケットを併設。「備中屋長衛門」と「蔵INN」に泊まる際のフロントと朝食会場はこの棟になる。
矢掛豊穣 あかつきの蔵
岡山県小田郡矢掛町矢掛2584 ☎ 0866-84-1001 http://akatsukinokura.com
● 10:00～22:00 ● 金～日・月曜日、祝日のみ営業 ※バンケットは完全予約制で年中無休 ● 駐車場/有
◎観光スポット 旧矢掛本陣石井家住宅
写真提供／岡山県観光連盟
参勤交代で大名や公家、幕府役人の宿泊や休憩の場として利用されていた国の重要文化財で、宿場町として栄えた町のシンボルとして大切に守られている。約1,000 坪の広大な敷地には、上段の間を備えた来客用の御座敷、御成門をはじめ、家人の生活空間や家業の酒造業を営むための主屋、内倉、酒倉、西倉など十数棟が現存しており、往時の姿を今に伝えている。
旧矢掛本陣石井家住宅
岡山県小田郡矢掛町矢掛3079 ☎ 0866-82-2110（やかげ郷土美術館） http://www.town.yakage.lg.jp/honjin
●3～10月/9:00～17:00、11～2月/9:00～16:00 ※入館は閉館の30分前まで ●高校生以上400円、小中学生300円 ● 定休日/月曜日、年末年始 ※月曜日が祝日の場合はその翌日 ● 駐車場/観光駐車場など利用
◎観光スポット やかげ郷土美術館
写真提供／やかげ郷土美術館
矢掛町の町木・赤松の太い梁を生かした伝統工法による建物は、木のぬくもりに包まれた心和む空間。地元出身の書家・田中塊堂や洋画家・佐藤一章をはじめ、郷土ゆかりの作品が数多く展示されている。同美術館のシンボルでもある高さ約16mの水見やぐらには上ることもでき、歴史と伝統に培われてきた美しい町並みを一望できる。
やかげ郷土美術館
岡山県小田郡矢掛町矢掛3118-1 ☎ 0866-82-2110 https://museum.yakage-kyouiku.info
●9:00～17:00※入館は16:30まで ●一般200円、中高生100円、小学生50円 ● 定休日/月曜日、年末年始 ※月曜日が祝日の場合はその翌日 ● 駐車場/有
◎土産物店＆カフェ やかげ町家交流館
写真提供／やかげ町家交流館
昭和初期に建てられた古民家の趣を生かした観光交流施設。館内には地元特産品の販売コーナーや、町のイベントなどの観光情報を発信するコーナーがある。平日は「やかげ茶屋」で、地元で採れた新鮮な野菜・果物を使用したランチやデザートなどを味わえる。毎週日曜日には、コンサートや落語会、朗読会などの各種イベントも開催されている。
やかげ町家交流館
岡山県小田郡矢掛町矢掛2639 ☎ 0866-63-4446 https://yakagemachiya.information.jp
●10:00～18:00 ● 年中無休（年末年始を除く） ● 駐車場/有
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