木、草、土、石といった自然素材を高度な技術で加工した伝統工芸品は、はるか昔より日本人の生活や文化を支え続けてきた。人間の磨き抜かれた手から生み出される品々の繊細さと美しさは、日本が世界に誇れるもののひとつ。瀬戸内にも多彩な伝統工芸品が今も残り、愛され続けている。古来より人々の暮らしに寄り添ってきた愛媛の伝統的特産品を一堂に紹介。味わい深い匠の逸品を、住まいの一部にアクセントとして取り入れてみてはいかがだろう。
※愛媛県では、長い年月を超えて受け継がれた郷土色豊かな工芸品・食品を「愛媛県伝統的特産品」として計28品目指定している(令和2年4月現在)。
<取材・文/鎌田 剛史>
目次
- 繊細な手仕事が生む匠の逸品
- 砥部焼(とべやき)
- 大洲和紙(おおずわし)
- 西条だんじり彫刻(さいじょうだんじりちょうこく)
- 伊予かすり(いよかすり)
- 伊予生糸(いよきいと)
- 周桑手すき和紙(しゅうそうてすきわし)
- 桜井漆器(さくらいしっき)
- 菊間瓦(きくまがわら)
- 和釘(わくぎ)
- 姫だるま(ひめだるま)
- 宇和島牛鬼張り子(うわじまうしおにはりこ)
- 桐下駄(きりげた)
- 水引・水引製品(みずひき)
- 和ろうそく(わろうそく)
- 高張提灯(たかはりちょうちん)
- 節句鯉のぼり(せっくこいのぼり)
- 姫てまり(ひめてまり)
- 八幡浜かまぼこ(やわたはまかまぼこ)
- 和傘(わがさ)
- 下駄(げた)
- 筒描染製品(つつがきぞめせいひん)
- 伊予簀(いよす)
- 伊予手すき和紙(いよてすきわし)
- 宇和島かまぼこ(うわじまかまぼこ)
- 伊予竹工芸品(いよたけこうげいひん)
- 棕櫚細工(しゅろざいく)
- 二六焼(にろくやき)
- 太鼓台刺繍飾り幕(たいこだいししゅうかざりまく)
繊細な手仕事が生む匠の逸品
砥部焼(とべやき)
愛媛県砥部町一帯で作られている「砥部焼」は、つるっとした肉厚の白磁に、藍色でさまざまな柄が絵付けされた陶磁器。オフホワイトとネイビーブルーのコントラストが美しく、配色がシンプルなので、和洋中どんな料理の器としても合う。厚手のため硬くて丈夫なのも魅力。経済産業大臣指定の伝統的工芸品。
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大洲和紙(おおずわし)
江戸時代以来作り続けられている大洲和紙は薄くて強く、保存性や耐久性にも優れており、現在も高品質の和紙として高い評価を集めている。素朴な美しさが感じられ、障子紙や書道用紙、ちぎり絵など多彩に使用されている。経済産業大臣指定の伝統的工芸品。
西条だんじり彫刻(さいじょうだんじりちょうこく)
西条だんじりは、屋台型の二階または三階造りで、柱間に「透かし彫」と呼ばれる技術を駆使した欄間彫刻が施されている。花鳥、武者絵、神話、十二支などの図柄が彫られ、最大の魅せる要素となっている。
伊予かすり(いよかすり)
伊予かすりは、素朴な味わいと深い色合いを持ち、腺が太く模様が鮮やかな点が特徴。現在では着物や洋服、バッグ、財布など多彩な製品が作られ、日常生活で広く愛用されている。
伊予生糸(いよきいと)
ふんわりとやわらかい風合いで、白い椿のような気品に満ちており、京都西陣織の帯や着物などに使用されている。非常に希少性が高く、現在西日本で生糸を生産しているのは西予市野村町のシルク博物館の1カ所のみ。
周桑手すき和紙(しゅうそうてすきわし)
西条市の国安地区と石田地区で昔から生産されている和紙。国安では主に結納品などに使われる檀紙を、石田では主に画仙紙や書道半紙が作られている。国安で漉かれる檀紙は、全国シェア1位を誇る。
桜井漆器(さくらいしっき)
良質な檜で木地を作り、漆を何度も丁寧に重ね塗りした後、蒔絵と沈金を施して作る堅牢さと美しさを兼ね備えた漆器。椀、皿、小鉢などの日用品から高級品まで幅広く愛用されている。
菊間瓦(きくまがわら)
いぶし銀の独特の色とつやが特徴で、和風住宅や神社仏閣の建築美の表現には欠かせない存在。優秀な職人が高度な技術で製造する瓦は、品質の良さや優美さが全国でも高い評価を受けている。
和釘(わくぎ)
伝統製法で作られる和釘は、不純物の極めて少ない純鉄を使用しており、錆も表面だけで中への侵入が極力少なく、千年以上その役目を果たす。松山城などの文化財再建・修復に使われている。
姫だるま(ひめだるま)
姫だるまには、紙を何重にも張り合わせて作る張り子姫だるまと、金欄と呼ばれる金糸を使った豪華な織物を着せて作る金襴姫だるまがあり、どちらも出産祝いや病気平癒、商売繁盛の置物として人々の生活に溶け込んでいる。
宇和島牛鬼張り子(うわじまうしおにはりこ)
江戸時代ごろから祭礼の練りとして登場していたといわれる南予の伝統文化「牛鬼」。現在のものは良質な紙や馬の毛が使われ、職人が張り子細工の技術を守りながら全工程手作業で製作している。
桐下駄(きりげた)
内子町で作られている桐下駄は、そりと呼ばれる下駄の湾曲が前後だけでなく左右にも入り、履き心地が良いのが特徴。最高級の桐下駄から安価なものまで、さまざまな下駄が生産されている。
水引・水引製品(みずひき)
江戸時代に女性の髪を結ぶために使われていた元結が水引の前身。愛媛は日本有数の水引の生産地としても有名。高度な技術を駆使して製造される優美な製品は、婚礼用をはじめ、置物などとしても重宝されている。
和ろうそく(わろうそく)
内子町で生産されている和ろうそくは、和紙とイグサで作った芯の周りに、ハゼの実から搾り取った蝋を素手でかけて乾燥し、再度上塗りして仕上げる。炎は大きく温かみがあり、すすが出ないので長い時間灯せる。
高張提灯(たかはりちょうちん)
高張提灯を製造しているのは現在南予地方にある1軒のみ。職人1人がすべて製作しているため、大量生産はできない。神社に奉納されているほか、一般家庭でも祭礼用などとして使用されている。
節句鯉のぼり(せっくこいのぼり)
1900年ごろから作られているという宇和島の節句鯉幟。もち米をつぶした糊や、大豆粉をしぼった汁、柿渋と油煙とアルコールを混ぜたものなど、昔ながらの材料を使い、伝統的な技法を用いて今も製造されている。
姫てまり(ひめてまり)
江戸時代に幼女の遊び道具として広まったという姫てまり。色鮮やかな絹糸で巻いた装飾は作り手によってさまざま。現在も出産祝いや引出物など贈答用の置物として広く愛用されている。
八幡浜かまぼこ(やわたはまかまぼこ)
1890年に宇和島よりかまぼこの製造が伝わったのが始まり。大正末期には原材料のエソ・グチの水揚げ量が県内最大を誇るようになり、かまぼこの産地として発展。現在も多彩な製品が作られている。
和傘(わがさ)
かつては内子町で盛んだった和傘の製造。伝統的な製造技術を踏襲しつつ注文に応じた製造方法を工夫し、耐久性と工芸的な美しさを両立した製品が作られ、実用的な雨傘のほか、お茶席や芝居で使用される装飾的な傘もある。
下駄(げた)
かつて木材の一大集積地だった大洲市長浜地区には、木履製造業者が軒を連ねていた。間伐材を用いた、環境に配慮した商品や、子ども用の保育下駄など、時代に合わせた製品づくりを続けている。
筒描染製品(つつがきぞめせいひん)
八幡浜で江戸時代から続く筒描染。和紙に柿渋を引いた皮のように見える筒に、もち米を糊にした防染糊を入れ、それを絞りながら模様を描き、天日で乾かして仕上げる。そのすべてが一点もの。
伊予簀(いよす)
新居浜市で今も作られている簀は和紙を漉く際に必要な用具。竹子と絹糸などを使用して編み上げる作業には高い技術が必要とされる。現在職人は全国に10数人しかおらず、その希少性は極めて大きい。
伊予手すき和紙(いよてすきわし)
書道用半紙で全国の書道家などから評価されている伊予手すき和紙。厚いものから薄いものまでさまざまな種類がある。今は製造業者は減少したが、四国中央市などには昔と変わらず作り続けている業者が少数存在する。
宇和島かまぼこ(うわじまかまぼこ)
1615年に伊達秀宗が宇和島へ分封された際、仙台かまぼこの職人を同行してその技術を伝えたのが始まりとされる。無糖・無でんぷんで弾力のある手作りの味わいは、宇和島地方の特産品として名高い。
伊予竹工芸品(いよたけこうげいひん)
伊予竹工芸品は、高級感のある赤と黒を二重に染色した「文人色」と呼ばれる染色や、職人の感性でリズミカルに編んでいく「やちゃら網み」の技術などを用いて作られる。落ち着きと気品に満ちた表情が特徴。
棕櫚細工(しゅろざいく)
内子町では1937年から蓑・たわしなどの製造が始まり、棕櫚皮を用いた漁具や縄、たわし、ほうきなどの製品づくりが盛んな地域だった。現代では棕櫚製品の需要は低下しているものの、伝統技術を生かしたほうきや土産品などの生産を続けている。
二六焼(にろくやき)
1887年に創始されたという二六焼は、ロクロを使わず、竹ベラを鉛筆のように駆使して赤手蟹や亀などの動植物を繊細に再現した焼物。繊細で躍動的な干支の作品は広く知られている。
太鼓台刺繍飾り幕(たいこだいししゅうかざりまく)
東予地方の絢爛豪華な祭りを彩る太鼓台。主に四国中央市で作られている刺繍飾り幕は、ほぼ全工程をひとりの職人が「高縫刺繍」と呼ばれる伝統技術で5~6年の歳月をかけて一つひとつ製作している。
【写真提供/愛媛県】