木、草、土、石といった自然素材を高度な技術で加工した伝統工芸品は、はるか昔より日本人の生活や文化を支え続けてきた。人間の磨き抜かれた手から生み出される品々の繊細さと美しさは、日本が世界に誇れるもののひとつ。瀬戸内にも多彩な伝統工芸品が今も残り、愛され続けている。古来より人々の暮らしに寄り添ってきた岡山の伝統工芸品を一堂に紹介。味わい深い匠の逸品を、住まいの一部にアクセントとして取り入れてみてはいかがだろう。
<取材・文/鎌田 剛史>
目次
繊細な手仕事が生む匠の逸品
備前焼(びぜんやき)
岡山県備前市の伊部地区周辺で生産されている「備前焼」は、日本六古窯のひとつ。50~100年寝かせた良質の土で一点づつ成形し、乾燥後に長時間じっくりと焼く。釉薬を一切使わないため土の風合いがそのまま残り、自然の温かさを感じる素朴な焼物に仕上がる。どの製品もひとつとしてほかに同じ柄のものは存在しない一点ものばかり。経済産業大臣指定の伝統的工芸品。
備前焼を手掛ける伝統工芸士のインタビュー記事もチェック!
勝山竹細工(かつやまたけざいく)
真庭市で、地元や周辺市町村から産出する真竹を原材料として生産される、家庭用の容器や農業用の運搬具。さらしや皮むきなどを行わない青竹を使った素朴な力強さが特徴。使い込んでいくうちに飴色へと変化していくのも魅力。経済産業大臣指定の伝統的工芸品。
手織作州絣(ておりさくしゅうがすり)
城下町・津山で発達した絣(かすり)で、太めの木綿糸を使用して織り上げられた素朴な織物。伝統の技術で織りなす藍と白のシンプルな模様には、なつかしいぬくもりと新鮮な感動がある。
津山箔合紙(つやまはくあいし)
美作地方で古くから生産されてきたミツマタを原料とする高級和紙。薄くてかさばらず、表面がなめらかなことから、金箔や銀箔を挟む「箔合紙」として、京都や金沢の金箔工芸には欠かせない存在となっている。
倉敷はりこ(くらしきはりこ)
倉敷の職人が、男児の誕生を祝って創作した虎のはりこが巷で評判になり、当地の縁起物として定着したもの。はりこのユーモラスな動きと表情は愛嬌たっぷり。現在では虎のほか十二支なども作られている。
撫川うちわ(なつかわうちわ)
江戸時代に武士の内職として作られ始めた、ふっくらとした「おたふく型」のうちわ。俳句を詠み込んだ「歌継ぎ」といわれる雲型模様と、その句に合わせた花鳥風月の絵柄と「透かし」が特徴。
備中和紙(びっちゅうわし)
約1,200年もの歴史を誇る手すき和紙で、丈夫で墨の乗りが良く、特に仮名書きに最適とされている。長期保存にも耐えられることから、1980年の東大寺昭和大納経の料紙にも挙用された。
高田硯(たかだすずり)
室町時代からの伝統を持ち、気品あふれる漆黒の光沢が特徴の硯。原石の形を生かして仕上げられ、「金眼」「銀糸」と呼ばれる紋様があるものは、特に逸品として珍重されている。石が軟らかく、墨が良く乗り、水持ちが良いという性質がある。
がま細工(がまざいく)
岡山県北部の蒜山地方に古くから自生する「がま」を、「ヤマカゲ(しなの木)」の皮のひもで編んで作った生活用具。「がま」は防水性に富み、雨・雪を防ぐのに優れていることから、雪ぐつなど雪国に欠かせないさまざまな製品が作られてきた。
烏城紬(うじょうつむぎ)
普通の紬よりもたて糸が少なく、よこ糸をよっていないため、布がしなやかで着心地が良く、暖かい着物に仕上がる。絹の優雅な光沢や色、しま柄は江戸時代の趣がそのまま残されている。
虫明焼(むしあげやき)
京都の清水焼の流れをくむ焼き物。薄肌できめの細かい肌ざわりと柔らかい曲線、緑かかった薄茶色などが、気品のある優しい風合いを作り出している。
津山ねり天神(つやまねりてんじん)
津山産の粘土を練って型にはめ、型からはずした後、窯の中で焼かず、天日で乾かし顔を描いた人形。庶民の間で育まれたもので、素朴な天神様の雰囲気をそのまま今に伝えている。
郷原漆器(ごうばらしっき)
蒜山地方のクリ材を使い、木目を大切にしながら備中漆などの天然の漆で仕上げた約600年の伝統を持つ漆器。しっかりとした塗りと実用性、独特の優れた沈金技術で仕上げられている。原木を生木のままロクロで挽いて木地を作るのは、他の漆器では見られない独特の技法。
【写真提供/岡山県、一般社団法人 岡山県産業貿易振興協会、備前焼 六姓窯元 桃蹊堂】